経営者よ 気概を持て(Vol.2)

はじめに

私は、経営者の方から寄せられる質問にお答えする連載を、「週刊文春」で三年以上つづけてきました。

たとえどんなに忙しいときでも、毎回何時間もかけて原稿を書き、出来上がった原稿に再び赤を何度も入れます。ときには、元の原稿が真っ赤になるくらい推敲してお答えしてきたつもりです。

というのは、私もゼロから会社を興してきた人間であり、当然、皆様と同じように、いくつもの壁に遭遇し、悩み、葛藤してきました。

それは、試行錯誤の連続であると同時に、その都度、困難を何とか乗り越え、人や運にも助けられた毎日でした。そして、いまでは、国内外で十数社の会社を軌道に乗せるまでに至っています。

経営者は、絶対に会社を潰してはなりません。経営者には、それだけの大きな社会的責任があるのです。

人に相談したいことは山ほどありますが、最終的な判断は、経営者自らが下さなければなりません。

そして、毎月の資金繰りや従業員のことでは、常に神経を摩耗するばかり……。その重圧たるやいかばかりか。

きっと皆様も、同じ思いでおられることでしょう。そう思うからこそ、筆に力が入り、心を尽くして来たわけです。

ところで、この連載をつづけてきて、たくさんのご感想を頂戴しました。「私も経営者ですが、私が常々思っていることを、深見さんがすべて代弁してくれています。

読んでいてとても爽快です。この人が他に出している本はありませんか」

「とにかく深見氏の連載には、机上の空論が一度もない。この人の講演会か何かがあったら、ぜひ行ってみたい」

「毎回楽しく読ませていただいていますが、ぜひ一冊の本にまとめていただけないでしょうか」

このようなご感想をお寄せいただいて、大変うれしく思いました。連載のすべてに、私の心意気を書いてきましたが、それが伝わる人には伝わったようです。

私は今もなお、社員と一緒に汗を流しつづけ、さらに、社員の何倍も徹底的に働く努力をしているつもりです。

会社経営は、経営者の志と気概、精神力、そして、人間としての総合能力こそが生命であり、それが、すべてであると言っても過言ではありません。

特に、中小企業においては、百二十パーセントがそうでしょう。そして、その生命力が生き生きとしていて、地道な努力を積み重ね、時に思い切って行動するしか、発展の道はないのです。

最後に、この本がその意味で会社発展のヒントになり、皆様のお役に立てれば、これにまさる喜びはありません。

深見東州

リストラなど先行きに不安を抱えて心が集中できず、仕事がはかどりません。

Q 私が勤務する会社でもリストラが始まりました。それでなくても先行きの不安を抱えていろいろと迷うことが多く集中力に欠けているのですが、人員が減った分、仕事量は増える一方です。

周囲からも決断が遅くなったと言われて自信を失いかけています。東京都小平市K・Iさん(36歳)

A:あちらを見ても、こちらを見ても、「やれ不景気だ、リストラだ」と将来に不安を抱かせるような情報が、嫌というほど溢れています。どんなに頑張ってこられた方でも、こうした状況下では、少なからず心が動揺してしまうのはやむを得ないのかもしれません。

しかし、心がざわついていたのでは仕事は停滞するばかりです。

仕事に集中できず、決断が鈍ってきたとおっしゃいますが、決断ができないというのは、その決断によって未来はどうなるのだろうか、とか、失敗したらどうしよう、これでいいのか、などと迷ったり不安に思ったりするから決断できないのです。

仕事をしている時に、ふと油断したり、手を休めてしまうと、「この決断を下して失敗したらリストラされるのではないか」とか、まだ来てもいない未来のこと思い煩ったり、自分にこんなに多くの仕事をこなす能力があるのだろうか、などと迷いの心が現れてくるのです。

「間が空くから魔が入る」と言いますが、間が空いてボーッとしていたり、なにか心配ごとがあったりしますと、間が空いて魔が入ります。

間、つまりスキです。そういうものがあるから煩悩にとらわれるのです。

いくつもの仕事をテキパキとやりこなしている人というのは、未来や失敗のことなどを考えて時間を無駄にしたりはしません。

目の前にあることを着実にひとつずつ片づけていく、それ以外は考えていないのです。こういう人には、魔が入るスキがありません。

つまり、迷いや不安があるから仕事が出来ないのではなく、目一杯仕事が出来ていないから間が空いて、迷いや不安が起きてしまうのです。

今のあなたのように、漠然と将来のことや過去のことを考えていますと、その思いに引きずられて過去の忌まわしい出来事や、将来への不安が芋蔓式にズルズルと引っ張られてきて、雑念妄想にとらわれてしまいます。

こういう時は、間を空けないようにご自分の心を管理しなければなりません。

漠然と人生を考えるから、雑念妄想の餌食になるのです。そうではなく、今目の前にあるこの瞬間瞬間だけに集中すればいいのです。

明日はどうなる、三年後はどうなるのだろう、などと漠然と人生を見るのではなく、今日一日、この半日、この三時間、この三十分と、人生を短く区切ってみるのです。

この三十分を精一杯生きようと思って、そこに集中していけば、雑念妄想が付け入るスキがありません。

心がいつも落ち着いて心がザワザワすることがありませんから、ただひたすら目の前にあることに集中できます。

そして、三十分集中したら次の三十分になすべきことに全力を傾ける。

これが三時間となり、半日となり、一日が終わったときには、ご自分でも驚くほど仕事が片づいているはずです。

結果を出してくれる人材を、会社はリストラしません。人生を短く区切って、ただひたすら目前の仕事に一生懸命励むだけで、あなたの悩みは即解決するでしょう。

また、未来の設計も現在の充実と成功の上に、自ずから出来上がるものです。しかも、極めて具体的に、かつ、人々の協力や応援を得て。
(二〇〇一年十月)

転属してきた女性の上司と反りが合わず、ストレスが溜まる一方です。

Q アパレル関係の仕事をしているのですが、最近転属してきた女性の上司との人間関係で悩んでいます。上にはヘコヘコしているくせに、部下には辛く当たるのです。

人間的にも冷たく、こんな上司の下で仕事をつづけていくのかと思うと、会社に行くのも嫌になってしまいます。大阪府寝屋川市 R・Uさん(25歳)

A:なぜ対人関係で腹が立ったり、がっかりしたり、悩むかといいますと、心の奥に期待感があるからです。

「こうあってほしいのに、そうじゃない」「こう言ってほしいのに、こんな言い方をされた」と思うから腹が立つのです。あなたの場合なら、「上司というのはそんなもんでしょう」と思っていれば腹も立ちません。

こんなふうに相手に期待する気持ちを捨てると、寛容性が生まれてきて、スーとイライラが消えます。

そこで、客観的に上司を見ていくと、上司の長所と短所が見えてきます。短所は、まず二百パーセント直りませんから、目をつぶるか、無視してしまいましょう。

そんな上司はどこにでも居るのだからと思って、あきらめてしまえばよいのです。

そのかわり、長所は褒めたたえます。褒めたたえられると相手の上司も嫌な気はしませんから、褒めてくれたあなたに好感を持ち、必ずあなたにプラスのものを返してきます。

人にはそれぞれ、そこを突くと怒ったり、あるいは嬉しがったりするポイントがあるものです。たとえば、顔には自信がなくても、長くスラリと伸びた脚には自信があるという女性なら、そこをツツッと突いて褒めてあげます。

すると、「えっ、そうですかあ。そんなことを言っても私はブスですから」と言いながらも、嬉しそうにニコニコしています。

逆に、これを言うと腹を立てるという怒りのポイントがあって、そこをツツッと突くとウォーッウォーッと怒り出します。

縁日で見たことがあると思いますが、鬼がいて玉を投げる。真ん中の的に当たると鬼がウォーッと叫ぶ、あれです。

たとえば、外見上のことだとか、本人が劣等感を持っているようなところを突かれると、プライドを傷つけられたとばかりに怒り叫ぶのです。

まず、あなたの上司のどこが怒るポイントで、どこが喜ぶポイントなのかを、よく分析してください。

そして、なるべく怒るポイントには触れずに、喜ぶポイントをいつも突いていくようにしていればよいのです。

よく観察すればわかりますが、怒るポイントというのはそれほど多くはありません。そこは刺激せず、喜ぶポイントをどんどん突いてあげるのです。

すると、今まで冷たく思えていた上司が、ニコニコと自分に対して笑顔になり、必ずあなたに何かプラスを返してくれるようになります。

これが対人関係における「技の見切り」であり、このことで悩まなくなる積極的な解決のコツなのです。
(二〇〇一年十一月)

仕事が手詰まりになって成果が上がりません。結果を出す方法をお教えください。

Q 流通関係の仕事をしているのですが、この不景気で売り上げは下がる一方です。仕事の手順を変えたり、新しいソフトを導入したりしているのですが、結果に結びつかず手詰まり状態です。

結果を出すにはどうしたらいいのでしょうか?千葉県市川市 Tさん(35歳)

A:不景気の時にはいくつかの方法が考えられますが、まず最初に考えなければならないのは、余計な経費をなくし、無駄な経費を削除していくということです。

ただし、売り上げを減退させる影響を及ぼす経費まで削減するのは削減のしすぎです。あくまでも売り上げが落ちないという前提のもとで、無駄な経費や余計な経費を削除することが必要です。

ところで、無駄な経費か無駄ではない経費かをどこで判断するかといえば、その経費を下げることによって売り上げが落ちてしまうとか、粗利益が取れる内容が阻害されるような経費まで削減してしまうと、逆に会社が衰退の方向に向かってしまう。

それは削減のしすぎです。

つまり、売り上げや粗利益を上げるために必要な経費は、無駄な経費ではなく、必要な経費です。無駄な経費は落とさなければならないのですが、必要経費はかけないといけません。

売り上げを上げ、利益を出すために必要な経費かそうでないかを徹底して調べ、景気のよかったときにあった無駄で余剰な経費を削減すること。これがまず第一です。

次にいえることは、不景気になってくると、世の中全体の消費が落ち込むわけですから、全体の売り上げの絶対的金額がどこでも落ち込むわけです。

だから、売り上げよりも利益率を上げる考え方に切り替えることが大切です。

つまり、売り上げを上げる体制から利益率を上げていく方向に転換するのです。そのためには、粗利益の取れるものやサービスは置いておき、さらにそこを伸ばす努力が必要です。

次に、粗利益の薄いものをやめていく努力をするのです。

だいたい、売り上げが二割落ちると利益が半分になり、売り上げが三割落ちると赤字だと言われています。

つまり、三十パーセント売り上げが落ちたら、もうどんな会社でも赤字です。

売り上げが三十パーセント落ちても赤字にならないためには、先ほども申し上げたように、余計な経費や無駄な経費をなくすこと。

それから、粗利益の取れる商品やサービスに販売構成を変化させることが肝心です。つまり、売り上げ至上主義から利益率至上主義に価値観を転換していくこと。これが第二のポイントです。

そもそも、会社にとって無駄なものや余剰なものをなくしていくことは、不景気や不況のときこそチャンスなのです。

景気のいいときには、やはりどこでも無駄が多いわけですから、不況を乗り越えたときというのは、結果、企業にとっての、新しい飛躍と脱皮ができていることになるわけです。

人は運のいいときには能力と才能が世に認められますが、傲慢なところ、自分の嫌な面が出てくると、やがて不幸・不運になり、衰退に向かっていきます。

そういう状況になって人は初めて、謙虚になって一生懸命努力して本当の実力がつくわけです。それを見事に乗り越えて、今度また運がよくなったときには、すごい実力が開花するのです。

同じように事業も、不景気のときは、会社の本当の実力が最も試されるときなのです。

そういう努力をつづけていくと、再び景気がよくなったとき、うんと業績が伸びるわけです。

ですから、不景気のときは、より脱皮して大きくなるための天の試練と受け止めて、今申し上げた努力をつづけていくことが必要です。

第三番目には、業績が伸びず、うまくいかなくなったとき、どうするかといいますと、マーケティング至上主義に変えていく必要があります。

景気のいいときはある程度何でも売れていくのですが、結局は、本当に消費者のニーズに合うものだけが生き残っていくわけですから、商品開発をするとき、生産者志向や売る側、品物を作っている側の視点ではなく、あくまでも消費者が真に求めているものは何なのかという、マーケティングの原点に立ち戻ることです。

やはり、お客様に直接触れ合って、いったい何が求められているのかということを、理屈ではなく、経営者自身がぶつかって、経営者自身の感性で真に求めているものをつかみ取ることが大切です。

つまり、顧客のニーズを捉えるために、直接、マーケティングと顧客の中に飛び込んでいき、現場に行って、お客様が真に求めているものは何なのかを徹底的に調べ、そういう商品を作り、そういうサービスをしていく。その脱皮が必要なのです。

するとやがて、企業の本当の実力がつき、企業体力が向上するわけです。そういう努力をしていくことが、不況のときには大切です。

たとえば、アサヒビールがビール業界で最下位だったころ、消費者のニーズやマーケティングから見て、本当に求められているビールを作ろうという原点に返って、あの「アサヒスーパードライ」が開発されたのです。

お客様や顧客の求めているものは、ビールに切れ味とコクのあることだった。

そのための酵素を開発し、さらに二十代、三十代の男性をターゲットにした辛口ビールを作った結果、「アサヒスーパードライ」が開発され、大ヒットしたのです。まさに、どん底からの立ち上がりであり、脱皮です。

マーケティングの原則、顧客のニーズの原点に返って、再出発したところが、ダントツ、ビール会社として成功した、大きな原動力になったのです。

以上、三つのポイントを申し上げましたが、不況もまた会社がより大きくなるためのビッグチャンスだと思って頑張ってください。
(二〇〇一年十二月)

デザイン事務所の発展方法を教えてほしい

Q 私はデザイン事務所を経営しているのですが、事務所がさらに発展し脱皮していく方法とポイントを教えてください。神奈川県横浜市 T・Mさん(33歳)

A:デザイン事務所がさらに発展し脱皮していくには、クライアント数を増やすこと注文を増やすこと、この二つに尽きます。

そうやって、いっぱいクライアントと注文が増えたなかから、本当に素晴らしいデザインが出来上がって、評判と評価がだんだん上がっていくのです。

そもそも、一個や二個考えただけで、素晴らしい創作性や会社の実力が向上するはずがありません。

それで、デザイン事務所が発展し脱皮することもあり得ません。

かくいう私も、次々といろいろなものを作りつづけています。品物を作れば俳句も作る。絵も描けば書も書きます。

「これでもか!」というぐらいに作品を多産しています。作品をたくさん作っていくなかで、いいものが一個、二個出てくる。

独創性や名作とはそういうものです。ですから、クライアントさんから、「こんなのできませんか」と仕事の依頼があったときは、天の声と思って、

「はい、できます!」と、まず答えて仕事を請けましょう。

仕事を請けた後で、どうしたらいいのかを考えるのです。お客様から注文も来ないのに、「私たちはこういうデザインが得意です」と言ってもしかたがありません。世の中で成功しているデザイン事務所の多くは、

「こんなデザインできませんか?」とお客様から打診があったとき、

「はい、できますよ。それ、得意なんです」と、まず仕事をいただくことを鉄則にしています。

それからどうしたらいいのを必死で考えて、その専門の友達などを血まなこになって探すのです。

そして締め切りにはきっちり間に合わせ、結果として誠実な仕事になるよう、なにがなんでも努力するのが本当です。この努力のプロセスで脱皮が遂げられるのです。

とにかく、人は必死になればいろんな知恵が湧き、知らないうちに今の自分から脱皮できるものです。

そしてその必死になる機会とは、実際に注文を受け、仕事を依頼され、締め切り日があり、厳しい目で支払いに値するかどうかを判断されるときです。

つまり、仕事が人と会社を育て、顧客が会社を磨き、鍛えてくれるのです。

だから、デザイン事務所が発展し脱皮する方法とは、顧客を増やし実際の注文を増やすことなのですが、そのなかで未知の仕事に対しても必死になり、なにがなんでも顧客が満足し、納得する仕事をするぞ、という柔軟性と気迫、情熱が特に必要なのです。

このことは芸術を志す人にも言えます。

つまり、「習作を作ることを厭うなかれ」なのです。逸品や名品を初めから作ろうとしてはいけません。

とにかく必死で作品をどんどん作っていくなかに、きらっと光るいい作品が一個か二個出てくる。ピカソでもいったいどれだけの作品を作ったことでしょう。

ベートーベンやモーツァルトもどれだけの作曲をしたことでしょう。そのなかで光り輝く作品は一個か二個なのです。

松尾芭蕉にしても、いくつ俳句を作ったことでしょう。膨大な数です。そのうちの一つが、「古池やかわず飛び込む水の音」。

一番有名ですね。芭蕉にはいい作品がいくつもありますが、芭蕉の作った俳句の数は膨大なものです。

ですから、必死で、柔軟に、気迫と情熱をもってたくさんの作品を作っていくしかないのです。それ以外に芸術家の発展や脱皮も考えられません。

創意工夫にしても、実際の作品から作品へと実作の結果で表現するしかない。何もないのに観念だけで考えて、「ああすべきだ、こうすべきだ」と言っても始まりません。

毎月の売り上げをどう上げていくのか、粗利をどう取っていくのか、経費をどうしていくのかなど、会社が成功することもしっかり考えて、一軒でも多くのクライアントを増やしていく。

そのなかから出てきた注文に対して、「ああ、いいですよ。お任せください」と言って、積極的にどんな仕事もいただき、あくまで実際の仕事のなかで全身全霊の創作性を振り絞り、脱皮と発展を遂げてください。しっかり頑張ってください。
(二〇〇二年二月)

会社が行き詰まりそうです。何か打開する方法をぜひ教えてください。

Q 会社が行き詰まりそうです。社員が数名という小さな会社なのですが、何か打開する方法をぜひ教えてください。福岡県福岡市 M・Nさん(4歳)

A:このご質問だけでは、あなたの会社がどれくらいの規模で、どう会社が行き詰っているかはわかりづらいのですが、今日は会社経営の原理原則をお話ししたいと思います。

この大変な不況の時に、売り上げが全然上がらなくなってしまったら、まず固定費を抑えて、小に徹することです。

そもそも社員が三十人までの中小企業の場合、社長の商売の才覚が、社業の九十パーセントまでを占めると言われています。

つまり、経営者自らが骨肉を痛ましめ、汗水垂らして労を惜しまずに、こつこつと、たとえ自分一人だけでも売って見せるぞと覚悟を決めて売り歩いていく、このしじみ売りの原点に返ることです。

汗水を垂らして一生懸命やった分は、必ず利益になりますから、会社が行き詰ったら、あなたが最初に会社を起こしたときの原点に返ってみることです。

そうしないと会社は絶対に再建できません。そして、どんなことでも自分がゼロから覚えて、自分一人でも完璧にやれるように技能と技術をマスターし、それを徹底的に磨くのです。

社長自らが完璧にできて初めて、「こうするんだ!」と社員を使うことができるのです。

思い出してみてください。あなたが会社を創建した当時は、自ら仕事をもらってきて、やがて仕事がいっぱい入るようになってから社員を増やし、その仕事を社員に振り分けていったのではありませんか。

会社が軌道に乗っていたときの原点はそこにあったはずです。ところが、長年会社を経営していると、最小限度の労力で最大の売り上げを求めようとして、だんだん己の心の中に、楽をして利益を得ようとする、いわゆる不精の心が根を張り出し、やがて会社は傾いていくのです。統計上、会社が倒産する一番の原因は「放漫経営」なのです。

私は自戒の意味も含めて、わが社員によく話をするのですが、あるハウスメーカーの社長が、「知恵を出せ、知恵が出ない者は汗を出せ、それができない者は会社を去れ!」と言っていることを、故・松下幸之助さんが聞いて、「そうかなあ。わしだったらこう言う。

「社員はまず汗を流せ。その努力した汗の中から知恵を出せ。

それができない者は会社を去れ」こういうのがほんまや。もし、そんなことを社長が言うてたら、その会社は潰れてしまうで」と言ったそうです。

確かに、汗を流して大変な思いをするより、知恵を出すほうが楽で格好いいですから、誰もが努力をしなくなります。

しかしそれでは会社は潰れるのです。そのとおり、その会社は数年後に倒産してしまいました。

ですから私は、社員と一緒に汗を流すようにしています。いや、社員の何倍も働く努力をしています。あらゆることができる自分になるよう、社員の何倍も技術と技能を習得する研鑽を重ねています。

そうでなければ、社員はついてきませんし、会社は潰れてしまいます。このあふれんばかりの気迫と気概が、社長には必要にして不可欠なものです。

特に中小企業では、この率先垂範しかありません。中小企業の社員は会社のネームバリューや社会基盤の安定性や信用度ではなく、社長の人となりについて行くしかないからです。

ところで、人に指示したり、指揮したり、命令したりするのが上手になってくると、その浮いた分を自己向上のために使えばいいのですが、得てして人は、労を惜しむようになり、不精になっていき、やがてそれが自分の性格の中に巣を作ってしまうのです。そして、知らず知らずのうちに傲慢になり、人生を放漫のうちに過ごすようになります。ここから放漫経営が始まるのです。営業も財務も労務も、すべてが甘くなり、マーケットの変化にも取り残されるのです。

とにかく、汗水垂らして労を惜しまず、粘り強く、身を粉にして働くのが仕事の原点です。その原点に返れば、固定費も削減できますし、その分だけ利益が上がるはずです。

曰く、「努力に追いつく貧乏はなし」です。この努力を不景気の時にしっかりしておけば、景気がよくなって売り上げが上がった時、それが全部収益につながるのです。

そして注文がいっぱいきて、自分一人で手が回らなくなってきたら、社員を増やすとか、外注に頼んでいけばよいのです。

景気がまた悪くなってきたら、外注などに頼まず、自分で仕事をこなし、パートなどで対応したりして、不況の時でも十分にやっていける態勢を整えることです。

仕事・商売は「ならぬ堪忍、するが堪忍」です。人材の育成も売り上げや収益率の確保も、社会の信用を得るのも、ただひたすら忍耐につぐ忍耐。その忍耐の上に創意工夫があって、初めて繁栄がもたらされるのです。

ピーター・F・ドラッカーの言うとおり、「マネジメント・イズ・ア・プラクティス経営とは実践なり」なのです。

いま述べたとおり、仕事の原理原則に返り、あなたの会社をぜひ再建していただきたいと思います。
しっかり頑張ってください。
(二〇〇二年三月)

不況の波に飲まれて倒産の危機に直面しています。突破口を見つけたいのですが。

Q 訪問販売の会社を経営してきましたが、不況のあおりを受けて倒産の危機を迎えています。

従業員の生活を考えるとなんとかしなければと思うのですが、突破口が見つかれずどうしていいかわかりません。何か知恵がありましたらお願いいたします。
千葉県千葉市 T・Nさん(30歳)

A:日々のご苦労はよくわかります。

しかし、会社を倒産させるのも存続させるのも経営者のやる気ひとつです。周囲がどうであろうと会社は絶対大丈夫なんだと信じて疑わない。

この、岩をも通す信念と実行力があれば、いっとき危なくなったとしても、またすぐに復活します。

野球のバッターには、三つのタイプがあると言われています。一つは、とにかく好きな球が来たら打つという、好球必打が最初のランク。次は、相手の投手のクセを見抜いて、ボールを予測して打つバッター。

そして、最高のバッターとは、打席に立っただけで、相手のピッチャーが自分の好きなコースに投げてくるのです。

王貞治氏がそうでした。必ず打つと信じて疑わない心と気迫に、ピッチャーが呑まれてホームランボールを配球してしまう。

そういう気迫があったからこそ、あれだけの大記録を作ることができたのです。営業も同じこと。

打席に立ったとき、つまり、コンコンと営業先のドアを叩く瞬間の気構えで、ほぼ勝負は決まるものです。

必ずうまくいくと信じて疑わない気持ちでドアを叩けば、相手はホームランボールを投げてきます。

反対に、こんな不景気だし、とっくに他社と契約しているだろう、などと寸分でもネガティブな気持ちでドアを叩けば、バットに当てても、内野ゴロにしかならないクセ球を投げられてしまいます。

もちろん、気迫だけでは結果は出ません。

王貞治氏にしても、見えないところで、人の何倍も打撃技術を磨く努力をしたからこそ、相手ピッチャーを自分に引きつけることができたのです。

また、最高のバッターになると、それだけ汗をかいて精進していれば、何割かの確率で必ずホームランボールが来るという、統計的な確信を体験的に持っているものです。

だからこそ、苦しいスランプの時期も乗り越えることができるのです。営業をしていると、三軒、四軒ノックしてダメだと、今度もまたダメかもしれないと思うものです。

しかし、経営者やトップセールスマンと言われる人は、そんなところで絶対にネガティブにはなりません。

なぜなら、彼らは最高のバッターと同じように、ひたすら汗を流していれば、必ず何割かの確率で成果が出るという統計的な法則を体で知っているからです。

たとえば、テレマーケティング。一万軒に電話をかけて成果がゼロだったら、誰もやりません。

しかし、百軒に電話をすると、必ずそのうち数軒が話を聞いてくれる。こういう統計的な裏付けがあるからこそ、テレマーケティングがあるわけです。

この法則がわかると、汗水垂らしてどこまでもノックしていく気概、勇猛心が湧いてきます。

正しい努力をすれば、必ずそれだけのものが得られるということがわかれば、その努力目標に向かって、何も迷うことなく突き進むことができます。そして、結果的に努力の目標とした数値が達成されるのです。

調子が悪くなったときこそ、基本に返って汗水を流さなければならないのです。大打者と言われる選手は、スランプになればなるほど、基本に返って焦らず練習します。

彼らは、正しく汗水を流せば、それだけの成果を得られることを体で知っているのです。

突破口が見つからないとおっしゃいますが、通常の三倍の汗水を流して、なすべきことをすべてやっていけば、おのずと突破口は開かれます。

まず、名刺を一千枚刷ってください。そして、その名刺がなくなるまで、お客様にお会いして、「よろしくお願いします」と、誠心誠意頭を下げていく。

断られても、断られても、千人に会い、千軒訪問していくなかで、必ずそのうちの何割かは仕事をくれるものです。

これは百パーセントいただけるものなのです。この割合は、住宅の飛び込みセールスの割合ですが、的の絞り方が違うものの、これより低い割合の営業は、保険でも車でもないと思います。

そして、これは対人関係でも同じことが言えるのです。あなたに岩をも通すやる気があれば、いろいろとゴタゴタしていても、たとえ親しい人が十人いて、そのうち九人に背かれても、一人は必ずあなたに手を差し伸べてくれるものです。

昨今は確かに難しい経済情勢ですが、今こそ中小企業の経営者の方々は、努力は必ず一定の確率で報われるという法則に目を向けて、積極、勇猛果敢に精進すべき時だと思います。

ぜひとも他を圧する勇猛心をもち、三倍の努力の汗を流して、目前の危機を突破してください。

ご健闘をお祈りいたしております。
(二〇〇二年四月)

全社一丸となって営業目標に取り組む体質を作りたいのですが。

Q 私は運輸倉庫業とフォークリフトなど作業機材のリース業を営んでいますが、なかなか各部門が一致団結して営業にあたるということができません。

全社一丸となって営業目標に取り組む体質を作りたいのですが、どうしたらよいでしょうか。大阪府堺市 Y・Mさん(46歳)

A:それはもう、社長が全社員の前で壮大な夢を語って、その気にさせるしかありません。あなたには、社員を感動させるアジ演説が足りないのではないでしょうか。

たとえば、各部門の担当者に、君のところはこれが足りない、あなたのところはこうしたほうがいい、などと理詰めで話をすれば、確かに頭ではわかってくれるでしょう。

しかし、それだけでは社員は燃えてくれないのです。やはり、社長は真実に基づく熱きホラを吹かなければいけない、ということなのです。

松下幸之助さんには、「二百五十年計画」という有名な話があります。二百五十年後に松下電器はこうなるんだ、という理想を、松下さんが社内でブチ上げたのです。

「二百五十年後に誰が生きているんだ?」とふつうは思います。ところが、「その頃には、松下電器はこうなっている」という松下さんの壮大な夢物語に、全社員がウワーッと燃えたわけです。

じゃあ、二百五十年後そうなるために、来年度は売り上げを二倍に伸ばそう、と言うと、本当に二倍増を達成する。二百五十年という夢で社員が燃えているので、本当に年に二倍増を成就してしまったのです。

キューバ革命が成功したのも、カストロ首相がつねに同志を燃えつづけさせたからです。革命軍はなかなか政府軍との戦いに勝てず、とうとう、ここで負けたらおしまい、というところまで追い込まれます。

そして、いよいよ明日が最後の決戦というときのことです。

そういう場合、日本人なら、さしずめ決死の覚悟を固め、水盃を交わしながら、「ここまで来たんだから、お互い悔いを残すことなく、思いきり戦おう!そして、散るときは見事に散っていこう!」などと、潔く誓い合ったりするところです。

ところが、そのときカストロはどうしたか。もう一度繰り返しますが、ずっと負けが込んできて、いよいよ明日が最後の決戦というときです。カストロは同志を全員並べて、一人ひとりにこう言いました。

「私の革命が成功したあかつきには、君は文部大臣だ。君は財務大臣だ。君は外務大臣、君は軍事大臣だ。

みんなが大臣になって、理想の国を作ろう!」そして、革命の理想や革命成功後の理想など、それから延々と熱っぽく語ったのです。

そうしたら、そこから再び燃えた革命軍は、最後の決戦から勝ち始め、劣勢を次第に挽回して、とうとうキューバ革命を成功させてしまったのです。

熱い熱い大ボラを吹きまくり、完全に戦いを盛り返したわけです。社会主義国家が世界中でだめになったその後も、大ボラを吹きつづけてここまで来ているのですから、カストロはたいしたものです。

民衆を引っぱって行くリーダーとは何か、を考えさせる人物です。

会社経営においても、松下幸之助さんのように、二百五十年後まで考えるかどうかは別にして、「五年後、十年後にこんな会社にするぞ!」と思うのは自由です。

そういう明るく前向きな熱き大ボラを、大きな声で、目をキラキラさせながら、つねに、具体的にも抽象的にもアジ演説をすることで、社長の情熱が伝わり、それで社員がみんなワクワクしてやる気になるのです。

だからこそ、各部署がいくぞーっと、一丸となって頑張る気持ちになれるのです。それを、こっちの部署はこうして、とか、あっちの部署は目標がこうで、などといくら言っても、相手はパソコンではなく、人間なのですから、その指示と情報は、頭には入ってもそれでハートは燃えないのです。

ハートが燃えない限り、全社一丸となって営業目標に取り組む体質はできません。

皆の意見を取り入れ、和気あいあいとやるだけでは、士気は上がらないのです。

やはり、声は大きく、目はキラキラ、明るいトーンで、つねに夢と希望を語りつづける。

そして、ロマンチシズムの中に陶酔して、明るく具体的な大風呂敷を広げる。そういうアジ演説が社員のハートに火をつけ、やる気を奮い立たせる第一歩なのです。

次に下の意見が上に反映され、また次に決断と実行力がスピーディーであり、またそれが業績に表われれば、パーフェクトに社員は燃えてきます。

こうなれば、社員が一丸となり、完全に気持ちがひとつにまとまります。中小企業の社長というのは、とくに、これができなければなりません。

言ったことがどれだけ実現するかどうかは、やってみるまでわかりません。しかし、本人が固く信じて疑わなければ、本当に実現するものです。

「社長が十思っていることは、従業員には一しか伝わらない」という松下幸之助さんの名言があります。

では、従業員に十伝えようと思ったらどうするか。それは、経営者が百思う情熱を持つしかないのです。

百思う情熱というのは、それだけ口数多く、熱っぽく、あらゆる機会に、あらゆる場所で、何回も何回も夢を語りつづけることであります。

一回、二回ではなく、声も大きく、目を見開いて、明るい大ボラを何回も吹きつづける。

その気概とパワーが大切なのです。結局、経営者の情熱と気概の一割しか、社員は燃えません。

だから、中小企業で成功している社長というのは、みんな情熱に燃え、迫力と気概があります。

そうでなければ社員はついてきませんし、これが、民間組織の中心となる人間の責任であり、愛情であると思ってください。
(二〇〇二年五月)

若手社員の育成で悩んでいます。幹部候補を見分ける方法を教えてください。

Q 流通関連企業で管理職をしていますが、社員教育で悩んでいます。今の若手社員は、インターネットやパソコンは使いこなすのですが、何か注意をすればすぐにキレたり、壁にぶつかるとすぐに放り出してしまいます。将来の幹部を育てなければならないのですが、若手社員をどう教育すればいいか教えてください。東京都多摩市O・Yさん(4歳)

A:これからの時代は、ハイテクノロジーが進んでいけばいくほど、人間のヒューマンなコンタクトであるハイタッチの重要性が高まってくると言えます。

つまり、これからは、「ハイテク、ハイタッチの時代」であり、天下をとっていくのは、
「ハイテク、ハイタッチ」両方の要素を兼ね備えた人間なのです。

インターネットやパソコンといったハイテクは得意でも、ハイタッチの部分が未熟というのでは、これから先、会社を支えていくことはできません。どんなにハイテクが進んでも、やはり「企業は人なり」なのです。

この大法則を決して忘れてはなりません。今後は、ハイタッチの部分に優れた人材をいかに育てていくかが、企業の死活を握るといっても過言ではないでしょう。

今の若手社員がキレやすいのは、ゲームやインターネットの影響が多分にあると言われています。

ご承知のように、パソコンの世界は日々バージョンアップを繰り返し、それにつれて反応が格段と早くなってきています。インターネットでもアナログ回線からISDN、さらには光ファイバー通信へと飛躍的に反応がスピードアップしつつあります。

パソコンならバージョンアップをしたり、接続方法を変更すれば自分の思ったとおりに動いてくれるでしょうが、いったん高速化しつづけるインターネットに慣れてしまうと、何かの事情でアナログ回線を経由したインターネットは反応が遅いですし、自分の思ったようにスムーズには動いてくれません。

こうしたハイテクのスピードアップに慣らされた人間はどうなるでしょうか。自分の思ったような速さで反応しない人を見ると、ついイライラしてしまうものなのです。

しかし、人間はコンピューターのようには簡単にバージョンアップしてくれませんし、キーボードを押すようには動いてくれません。心と言葉と理解と忍耐と行動がなければ動きません。

時代の流れに遅れないように、ハイテクを追い求めるのは確かに必要なことですが、その反面、ハイテクばかりに目を向けている人は、肝心のハイタッチの部分が、それに反して劣化してしまうのです。

パソコンやインターネットを自由自在に駆使する若手社員がキレやすいというのも、実はここに原因があるといえます。

ハイテクに凝った人間は、その日の気分や感情に左右されて、自分の思うように反応してくれない人に腹を立ててしまいがちです。

こういう人間は、当然、人を動かすことなどできないでしょう。将来の幹部候補生としては不適格と言わざるを得ません。

ですから、会社を将来背負っていく幹部候補社員として適性があるのは、ハイテクの専門技術に優れた人材よりも、人間の感情に訴え、人間の感情を動かすことのできる文学のある人材なのです。

スペシャリストではなく、ジェネラリストでなければ会社の舵取りは任せられません。

もちろん、先ほども申しましたように、ジェネラリスト兼スペシャリストであるに越したことはありません。しかし、よりどちらが大切かと言えば、繰り返し述べているとおり、ハイタッチのできる人材を育てることなのです。

将来の幹部を育てようとお思いでしたら、ハイテクの教育を二割程度に抑えて、ハイタッチの教育を八割というようにお考えになられてはいかがでしょうか。

こういう視点で若手社員を観察し、コミュニケーションを図っていけば、必ず逸材を掘り起こすことができます。逸材を見出すヒントは、高校、大学、社会でクラブ活動、サークル活動の責任者だった人、生徒会、自治会の責任者だった人、大家族で長男、長女だった人、ボランティアなどで積極的に人のお世話をしていた人などです。

なお、若手社員が人間関係でトラブルを起こしたり、お得意様からクレームをいただいたりした場合は、人間の心はキーボード操作のようには反応してくれないものなんだということを、その都度、根気よく諭していくことも大切です。

部下や従業員を動かすには並大抵の忍耐力ではできません。自分の思うようには人は動いてくれないということを、きちんとわきまえた人でなければ、やはり、人の上には立てないものです。

いったん人の上に立てば、どんなに鈍い人でも根気よく指導していかなければなりません。ですから、「ハイテク二割、ハイタッチ八割」を心がけて、素晴らしい人材をお育ていただきたいと思います。

そうしていく中で、あなたご自身も人間的に成長していかれることでしょう。ぜひ、頑張ってください。
(二〇〇二年六月)

赤字続きで会社を続けていくべきかどうか迷っています。

Q 建築と土木舗装工事を請け負う会社を経営しているのですが、現在は赤字で、このまま会社をつづけていくべきかどうか迷っています。埼玉県川口市 M・Tさん(45歳)

A:あなたのような建設会社の下請けをしている工務店は約三万軒あり、日本にある会社の中では一番多い業種だといわれています。

このように同業他社が多い場合、経営を上向かせていくための大原則は、何をおいても営業努力以外にはありません。

成功している工務店は、本人および息子が、何年間か、大手あるいは中小のゼネコンの営業畑で修業して、営業のノウハウをしっかりと身につけているものです。

とにかく、「どんな小さな工事でもやります!」という具合に、名刺やチラシをいっぱい配って、積極的に営業展開していくことです。そうしないと、やが会社は潰れてしまいます。

そして、営業力を鍛えていくと同時に、同業者でいつも仕事をくださるところに対して接待をするのです。もちろん、接待も営業のうちです。

「ゴルフに行きましょうよ」

「飲みに行きましょうよ」

「麻雀に行きましょうよ」

というように、仕事をくださる担当の方や社長さんに対して、積極的に接待をするのです。

また、年賀状や暑中見舞いなどの季節のごあいさつはもちろんのこと、担当者や社長のご家族に対しても、結婚祝いや入学祝いをお贈りしたり、ご不幸があった場合にはご葬儀に参列するといったように、いつも気にかけて大切にしているということを、具体的な態度で示すことが大切です。

冠婚葬祭は、自分の存在を知っていただく絶好のチャンスでもあるのです。故・田中角栄元首相があれだけ多くのファンをもち、選挙に強かったのも、葬儀と聞けば、どのようなところにも、必ず一番大きなしきびや花輪をおくることを怠らず、家族関係のつながりが大きい新潟県において、この冠婚葬祭のときを上手に使って票を固めたからです。

このように、世の中にあるお付き合いを、顧客の重要度に応じて、今まで最低限度だったものを、最大限までやる努力をすることが肝心です。こうして、筆まめでいつも腰低く、かつどこよりも足繁くまわっているところには、必ず仕事がやってくるものなのです。

さらには、お酒が飲めるように、あるいは、飲めない場合にはすすめ上手になるように努力をすることです。

また、カラオケやゴルフの練習をしたり、囲碁・将棋・麻雀を勉強したりと、お得意先で、自分に仕事をくださる方の趣味を聞いたとえそれが自分の好きなことでなくても、無理矢理好きになる努力をして、相手に喜んでいただくようにするのです。

お仕事をいただいているときに、腰低く、足まめ手まめ口まめに、営業力を展開しているところには、一回仕事がきたら、必ず再び発注がくるものです。

また、クレームがあったときも実はチャンスなのです。誠意を示すチャンスは、クレームを受けたときから始まるからです。

クレームがあったら、誠の五段活用と私が言う、「わざわざ」、「早速」、「菓子折り持参で」、「丁寧な言葉で」、「何回も何回も足を運んで」を実行して、相手に誠意を受け取っていただくべきです。

このことによって、信頼できるいい会社であることが認めていただけるのです。相手にいったん認めていただければ、知り合いの会社に紹介していただくことも可能です。

その場合、「先日はご紹介いただきまして、誠にありがとうございました」と、口に出して、あるいは、手紙に書いて、きちんと相手にお礼と報告をするといった、きめこまやかな努力を絶やさないことが大切です。

そういう営業努力をつづけることによって、つねに、下請けに指名していただけるようになるのです。こうして、売り上げが上がり、利益が安定するようになれば、優秀な人材を雇うこともできるし、社員に多くの給与を出すこともできます。

工務店のように、ある程度技術が必要な業種においては、とかく今まで述べてきたような、営業的なセンスのソフトウエアをおろそかにしている職人気質の経営者を、実に数多く見かけます。

とくに、腕に自信のある人ほど、「一生懸命いい仕事をしているんだから、何でこっちから頭を下げて接待しなくちゃならないんだ」というように考えがちですが、こういう考え方では、会社を維持発展させていく経営者としては、失格と言わざるを得ません。

もし、仕事が全くまわってこなくなったら、どうやって家族や社員を食べさせていくのでしょうか。

そのときは、必死になって、「何か仕事をください」と、懇願して取引先をまわるはずです。経営者としては、家族のためにという前に、社員を食べさせて、ボーナスや昇給や生きがいのある人生を送らせてあげるために、景気に関係なく、一年三百六十五日、必死で仕事をもらいつづけなければならないのです。

それが宿命です。技術に力を入れることももちろん大切ですが、それよりも、まずは営業力を強化し、小なりといえども、経営者として会社を成功へと導いていただきたいと思います。

しっかりと頑張ってください。
(二〇〇二年七月)

当社のマネをするライバルが次々と出てきて、売り上げが頭打ちになってしまいました。

Q 新分野を開拓し、その分野では唯一のメーカーであると自負してきましたが、この一年間で八社のライバルが出てきました。動画の入ったCD二千枚を作って営業したりと、いろいろと手は打っているのですが、売り上げに結びつきません。資本力もなく、販売力もない当社が生き残っていく方法をぜひ教えてください。東京都墨田区 T・Kさん(30歳)

A:厳しい言い方かもしれませんが、今日のピンチはご自分の会社が新しい分野で唯一の会社だという、油断と慢心と怠りが招いた結果であるようにお見受けいたします。

おいしいところはすぐにライバルが現れるというのがマーケットの常識です。ですから、今のような状況で不安を感じているようでは、これから先、とても勝ち抜いていけるものではありません。

今のあなたに何よりも必要なのは、絶対に勝ち抜くんだという圧倒的な気迫と、他社を上回る研究力と経営の努力です。その戦略を立てたあとは、販売力をつけるしかありません。

戦略が六、戦術が四と言われるビジネスの攻撃パターンです。

具体的に申しますと、一年間で八社のライバルができたのなら、八社すべてをとことん研究して、八社と御社との違いを明確にすることです。勝ち抜いていこうと思ったら、徹底的にライバルを研究しなければなりません。

そのためには、ライバルが請け負った現場に脚を運ぶことも必要です。そうしていけば、必ず御社の優位性を顧客に訴求できるポイントが見つかるはずです。

たとえば、動画CDを作成されたとのことですが、他の要素はすべて省き、ライバルに打ち勝つ品質とコストとサービスの優位性をアピールするポイントだけをCDにすべきです。

とにかくそのポイントを一目で顧客に訴求できるように、わかりやすく図解してみるのもひとつの手段です。

そして、五分間のセールストークのなかで、八社のライバルよりも、いかに自分のところが優れているかを、立て板に水を流すがごとく、論理性と具体性をもって切り返していくのです。

しかし、それだけでは売り上げに結びつくとは限りません。売り上げに結びつく最終的なポイントがあるからです。

それは何かと言えば、「お願いします。注文をください。売り上げをください。我が社の製品をぜひ採用してください」と、真正面からお願いする勇気と素朴さが必要なのです。これを何度も率直に繰り返せることが、売り上げに直接つながる本当の営業力なのです。

売り上げを提供する社長や担当は人間であり、心を持っているからです。

製品がどんなに良くても、コストが少々安くても、生意気で高飛車で嫌味な奴から物は買いたくないし、売上げも渡したくないものです。

発注する人が営業マンを気に入ってくれると、「これくらいのコストで、こういう品質で、こんなサービスがあれば、君のところから買うからね。

他社に負けているところはここだから、ここをこうすれば社内的にも通せるから、採用してあげるよ。頑張ってね」と受け入れてくれる。営業で苦労して実績を上げた人なら、誰でもわかる私の言葉でしょうが、今まで唯一のメーカーを自負していて、相手の方から注文が来ていたあなたが、マーケットの変化を知って、この切り替えができるかどうかが問題です。

この壁を越えない限り、会社の未来はないと思って頑張ってください。

ところで、新規顧客を獲得するためには、ターゲットを絞るためのリサーチが必要です。

釣りでも、釣り人が集中するポイントというのがあります。そこに魚がいるのです。当然、ライバルもそこに釣り糸を垂れています。しかし、精神的に後れを取っていては、初めから勝ち目はありません。

ここぞというポイントを見つけたら、割って入って撒き餌をして、先ほどの要領で朝昼晩と何回も何回も投げるのです。

そして、「必ず契約が取れるんだ!」と信じて疑わないことです。心に一厘でもネガティブな想念があると、すぐライバルに釣り上げられてしまいます。

だから、戦略的に他社を徹底的に研究して、品質、価格、サービスの三つのポイントでライバルに差をつけてください。

そしてあとは、本当の営業力を発揮して、勝つ戦術を磨いてください。こうして、大いに奮闘努力し頑張ってください。(二〇〇二年八月)

本業が安定しているうちに、新規事業に挑戦したい。

Q食品関係の卸業をずっとやっておりますが、世の中の状況を見るにつけ、何か新しい事業にチャレンジしないことには事業の存続は難しいと思っています。

財務が安定している今こそ、そのタイミングだと思うのですが、何かいいアドバイスがあればよろしくお願いします。東京都町田市 I・Oさん(46歳)

A:事業をやっていく上での果敢なるチャレンジ精神や事業拡張等のビジョンは経営者に必要なことですが、その前に、新しい事業にチャレンジしたいというご自分の意欲が、いったいどこから来ているのかをしっかりと見定める必要があります。

「何か新しい事業にチャレンジしないことには、事業の存続が難しいタイミングに来ている」とあなたはおっしゃいますが、もしも、今の仕事にそろそろ飽きが来ていて、そのために何か新しいことをしたいという気持ちが原因しているとするならば、「ちょっと待っていただきたい」と私は言いたいのです。

経営者としてビジョンを持つことは確かに必要なことです。しかし、財務が安定してきたときに、もっと前向きなことをしたいという野心が出てきたときこそ、実はその事業欲で失敗する経営者がとても多いということを知っておく必要があります。

売り上げを伸ばすにしても、経費を削減することにしても、経営者自らが、「必ずそうするのだ!」と強く信じて疑わなければ、たいていの事業はうまくいくものです。

社長の信念が強ければ強いほど、その気迫や気魂、集中力等が社内の隅々にまで行き渡り、会社はうまく軌道に乗っていきます。

そして、その延長線上に次の新しい仕事が見えてくるようになるのが本物です。目前の仕事に飽きることなく怠ることなく、血のにじむような必死の努力をつづけていくなかで、はじめて次の新しい事業が向こうから吸い寄せられてくる。

これが、事業を発展拡張していくときの原理原則です。そういう只今只今の努力を怠っておきながら、時流がこうだからとか、経済状況がこうなるからといって新しい事業に手を出して失敗するのが、経営者の陥りやすい最も大きな落とし穴なのです。

今まで、この相談コーナーでも何度となくお話し申し上げているとおり、会社が倒産する最大の原因は放漫経営です。

とくに、財務がある程度安定してくるときが実は一番危ないのです。うまくいっているんだという油断と慢心と怠りが元で、本業以外の事業やゴルフなどの遊びに、資金も労力も時間も過度に使うようになってしまうからです。

その結果、本業へのエネルギーや集中力が足りなくなっていき、その不足した分、細かいところまで神経が行き渡らなくなり、会社全体の活力が衰えて経営が傾いていくのです。

あくまでも本業に本腰を入れて専念していく中で、その延長線上に新しい事業が出てくるというのが本物であるということを、しっかりと肝に銘じておく必要があるでしょう。

その正しい努力の上で、何か新しい事業が見えてきたら本物です。そのときには決して慌てず騒がず、じっくりと見定めていく心がけをしたいものです。

そして、最初はもしうまくいかなくても、損金で処理できる枠内で資本を投下していくことです。

はじめから大きく資本を投下すれば、うまくいかなかったときには会社を揺るがすような事態を招くことになります。ですから、損金で落とせる枠内の資本投下で、まずはマーケットの当たりを確かめる。

その中に魚がいるなと思ったら、そこにどんどん仕掛けをして、撒き餌をして、釣り始める。売り上げが伸び、業績が上がってきたら、そこに人間と資金を投資し、設備投資をしていけば着実に事業は伸びていきます。

新しい事業をスタートさせるときは、小さく産んで大きく育てるということが一番のポイントなのです。

新しい事業を展開するときに経営者が肝に銘じておかなければならないのは、何度も申し上げているとおり、決して本業をおろそかにしないということです。

新しい事業に心を奪われて、本業の方は電話でチェックすればいいとか、人任せにしておけばいいと思ったとたんに、倒産への道が始まります。

会社の中で一番気迫と根性と念力が強いのは経営者なのです。圧倒的な迫力を持っている人間がそばにいてはじめて、従業員の気持ちもギュッと引き締まってくるものです。

経営者の迫力、念力、息吹に触れていないと、会社はあれよあれよという間にパワーダウンしてしまいます。本業をしっかりと固めながら、無理のない枠内で新規事業を進めていくべきでしょう。

ご成功をお祈りしております。
(二〇〇二年九月)