星にまつわる世界の神話
夜空を仰ぎ、星と向かい合い、人はさまざまな考えを巡らせ、想像した。
人類はどこから来て、どこへ行くのか。
生と死。時間と空間。夢と現実・・・・・・。
やがて世界各地に星にまつわる神話が生まれ、人々は連綿とそれを語り継いだ。
月の模様になったウサギ… 月(インド)
昔から日本では、月にはウサギが住み、餅をついていると言い伝えられてきたが、そのルーツはどうやらインドらしい。インドにこんな伝説がある。
昔、ウサギとキツネとサルの三匹が仲良く暮らしていた。あるとき三匹は、自分たちがこうして獣の姿をしているのはなぜかを考え、真剣に話し合った。
「きっと前世の行いが悪かったんだろう」
「だったら、これからは人の役に立つことをしようじゃないか」
まもなく、そのチャンスがやってきた。三匹の前に、一人のみすぼらしい老人が現れたのである。
彼らはさっそく老人の世話をすることにした。サルは木に登り、木の実を集めてきた。キツネは野山を走り、果物を持ってきた。
しかし、ウサギは何もできない。そこで彼は自分自身を食べてもらおうと、火の中に飛び込んでしまった。
驚いたのは老人である。老人は神様の仮の姿だった。
「おまえたちの気持ちはよくわかった。来世では必ず人間にしよう。それにしても、ウサギにはかわいそうなことをした。月の中に、奴の姿を永遠に残してやろう」
月の黒い模様は、ウサギが喜んではねている姿なのである。
金星は賢王の化身… 金星(メキシコ)
古代メキシコ人にとって、金星は特別な惑星だった。それは英雄ケツアルコアトル王の象徴だからである。
ケツァルコアトル王は豊かな統一国家を建設し、人々から神のように崇められた。
しかし、老いてから、敵国アズテックとの戦いに敗れた。
無念にも国を捨てなくてはならなくなったとき、誇り高き王は、自ら死を選んだのだった。
「私の役目は終わったようだ。まもなくこの地上から姿を消すが、悲しむことはない。これからは夜空に輝く星となり、昔の幸せを天界から見守るのだから」
ケツアルコアトル王は小高い丘に木を積み上げさせ、火を放った。そして、集まった臣下や民衆の制止も聞かず、猛火の中へ悠然と入っていった。
王の身体は灰となったが、心臓だけがいつまでも赤々と燃え続けた。
やがて、心臓は燃えながら天高く舞い上がり、夜空に届くと美しい星となった。それが金星である。
王には金色の立派な髭があったため、金星の強い輝きは王の髭だと信じられた。
また、この地に十五世紀頃まで栄えたマヤ族は、金星暦を用いている。これを発明した人こそ、ケツアルコアトル王であるという説もある。
聖徳太子と夏日星… 火星(日本)
火星の和名は「夏日星」である。その名は「扶桑略記」や「聖「徳太子伝暦」にも載っている。
夏の盛りの暑い夜のことだ。天才的な歌人と言われた土師連八島が、歌作に耽っていた。
するとそこへ、一人の可愛い童子が現れた。自分も歌を作りたいというので、二人の競い合いが始まった。
童子の作る歌はいずれも素晴らしく、歌を詠む声も、この世のものとも思えぬほど神々しい響きがした。
童子の正体が知りたくなった土師連八島は、歌で問うた。我が宿のいらかにかたる声はたそ、たしかになのれよもの草ども、童子も歌で答えた。
あまの原南にすめる夏日星、豊にとへよもの草とも
豊聡とは聖徳太子のことであ
る。翌朝、童子が姿を消した後、八島はさっそく聖徳太子のところへ行った。
話を聞いた聖徳太子は、こう説明したという。「物の本によれば、夏日星はしばしば童子に姿を変え、人間と遊ぶことがあるという。しかも私たちが想像もできないほど美しい歌を詠むのだそうだ」
これによく似た話は中国にもあり、中国では子供に化けた火星の精が予言をしたり、人間に警告を与えている。
織女と牽牛の七夕伝説… 天の川(中国)
天の川と言えば、中国の七夕伝説があまりに有名だ。日本にも、遣唐使により七夕伝説とその行事が伝えられ、今日に至っている。
ご存じのように、物語の主役は織女と牽牛である。
織女は天帝の娘であり、天の川の西岸に暮らし、毎日一心に機織りをしていた。それは恋をする暇もないほどの打ち込みようだった。
感心した天帝は、天の川の向こう岸で牛飼いをしている若者と結婚させることにした。しかし、二人は新婚生活の楽しさに溺れ、すっかり働かなくなってしまった。
怒った天帝は、二人を天の川の東西に引き離し、年に一度しか会えないようにしたのである。
その日が七月七日だった。二人は毎日懸命に働き、年に一度のロマンスを待ちわびた。
この日が来ると、鵲が飛んで来て、羽を連ねて橋をかけてくれる。それを織女は渡った。けれど、雨が降ると川が増水して、橋をかけられない。
そこで、二人に同情した人々が、七月七日に雨が降らないよう、七夕の祭りをするようになったのである。
中国の農村部には、七夕の日に鵠を見ると、石を投げて天の川に行くよう促す習慣が残っている。
天上界にかけられた愛の橋… 天の川(フィンランド)
天の川については、世界各地にさまざまな伝説が残っている。
伝説の多くは、天の川を「天界を流れる川」と認識した上で成立しており、古代エジプトでは「空のナイル川」、インドでは「空のガンジス川」と呼んだ。
中国では、漢水という川の気が天に上ったものと考えられ、銀漢とも、銀河とも呼ばれた。
天の川を、こうした大河ではなく、橋と見たのは北欧の人々だ。昔、ズラミスとサラミという仲睦まじい夫婦がいた。
二人は、死後ともに天に昇ったが、別々の星に分けられ、再び会うことができなかった。
そこで二人は、なんとかもう一度会えないものかと、近くにあった小さな星屑を集めて橋を作ろうと考えたのである。
しかし、それは気が遠くなるような作業だった。二人がやっとの思いで光の橋を完成させたときには、千年の歳月が流れていた。
二人はそれぞれ両側から橋を渡り、おおいぬ座のシリウス星で出会い、以後、永遠にそこで一緒に暮らしたという。
「冬の大王」の異名を持つシリウスは、北欧では南方に低く見え、近くには天の川がうっすらとかかっている。
七夕伝説にも似たロマンチックな話は、こうした地理的条件が生んだようである。
夜空に投げ上げられた熊… 北斗七星(アメリカ)
北斗七星を含む星座を大熊に見立てたのは古代ギリシャ人だが、アメリカ・インディアンにも、この星座を熊と考えた伝説がある。
ある夜、熊が森をさまよっていると、木々がざわめき、動き出した。最初は風のしわざかと思った熊だったが、まもなく大きな木が現れ、枝が手のように伸びてきた。
枝は、びっくりしている熊の尾をとらえると、天上に投げ飛ばしてしまった。枝は、森の神様の手だった。神様は、夜の森をうろつく熊がめざわりだったのである。熊は星座
となったが、実際の熊より尾が長いのは、このとき神様が尾をつかんで投げたからだという。別のインディアンの部族には、北斗七星のひしゃくの口に当たる四つの星を熊に、柄の三つの星狩人に見立てた話もある。
春、三人の狩人は、冬眠から目覚めた熊を見つけて、さっそく追い始めた。けれど、熊もやすやすとは捕まらない。
両者の攻防は続き、季節は春から夏へ、そして秋になった。狩人はようやく熊を追いつめ、一斉に矢を放って射止めた。
熊の血は周囲に飛び散り、木々の葉を紅色に染めた。以来、毎年、秋になると紅葉が訪れるのである。
女神が落とした麦の穂… 乙女座(エジプト)
エジプト神話では、乙女座は女神イシスとされる。イシスは豊作をつかさどる神として知られ、いつも麦の穂を手にしていた。
彼女の夫はエジプト神話第四代の王オシリスであり、王位イシスに譲ると、農業を教えるために国中を廻った。
オシリスには弟がいた。暗黒の神セットである。彼は、兄オシリスを亡き者とするため、策を弄した。
宮殿へ戻ってきたオシリスのために祝宴を開き、オシリスの身の丈にあわせて作った豪華な箱を用意しておいたのである。「この中に入り、寸法がぴった
り合った者には箱を進呈しよう順に客が入ったが、誰も合わない。最後にオシリスが入ると、セットは蓋をし、釘を打ちつけてしまった。
そしてそのままナイル川に投げ込んだのである。嘆き悲しんだイシスは、髪を切り、泣きながら箱を探した。
このためエジプトでは、夏至の前に降る雨を「ナイルの涙雨」と呼んでいる。
次にセットは、イシスをも襲った。イシスはなんとか逃げ延びたが、そのとき持っていた麦の穂を落とし、麦の穂からこぼれた粒が天の川になったという。
後にセットはオシリスの子ホルスに倒された。ホルスに手を貸したトート、アヌビスの二神が、現在のシリウス星である。
母の後を追ったひよこ… すばる(タイ)
タイの信心深い夫婦の話。
仲が良い夫婦だったが、子供がいないことが唯一悩みの種だった。夫婦は、子供の代わりに、一羽のにわとりと七羽のひよこを大切に育てていた。
ある日、一人の老いた旅人が訪れ、一夜の宿を乞うた。心優しい夫婦は気持ちよく承知したが、旅人をもてなすような食事はなかった。
二人は相談の上、にわとりをつぶしてカレースープをつくることにした。
その頃、にわとりは七羽のひよこたちを集め、話していた。「私は大切にしてくれたご夫婦のために食べられます。
でも悲しまないで。こうして御恩に報いることができて幸せなのだから」
にわとりをつぶしたカレースープができると、七羽のひよこは鍋のそばにやってきた。そして次々にぐつぐつ煮え立つ鍋の中に飛び込んでいった。
旅人は、夫婦の親切をいたく喜んだ。実は、旅人はお釈迦様の仮の姿だったのである。
お釈迦様は七羽のひよこを空にあげ、星にすることも忘れなかった。これがすばる星(プレアデス)だ。
タイでは今も、すばる星をダオ・ルーク・ガイ(ひよこ星)の名で呼ぶ。
夜空に輝く巨人の眼… 双子座(ドイツ)
ゲルマン民族の一部族、チュートン族に伝わる伝説である。
グーゼという巨人は、大鷲に姿を変えては気に入ったものを何でも鋭い爪でつかみ去った。
ある日グーゼは、三人の神が牛を煮ているのを見つけた。彼は煮え加減を見計らい、肉を爪でつかんで逃げようとした。
神々の一人、ロケが棍棒でグーゼを殴ろうとしたが、反対にグーゼの口にくわえられてしまった。
ロケが「助けてくれ。何でもするから」と叫ぶと、グーゼは言った。「若返りのりんごを持って来い。」
地上に降ろされたロケは、約束を果たすために、りんごを守る女神イドウィンをさらい、グーゼに渡した。
だが、他の神々は彼を許さず、女神とりんごを取り戻さなければ死刑だとロケに宣告した。
ロケは鳥に変身し、グーゼの留守中に女神とりんごを取り戻して飛び立った。家に帰り、事態を知ったグーゼは、全速力でロケを追った。神々は、宮殿の石垣に枯れ枝を積んで待ち受けていた。
ロケが石垣に降り立つと同時に、神々は火を放った。追ってきたグーゼは、勢いあまって火の中に飛び込んでしまい、翼を焼かれて飛べなくなったところを神々に殺された。
神々はこれを記念し、グーゼの眼を星にした。巨人の両眼は、今も双子座となって輝いている。
夜空にかかった釣り針… 蠍座(ニュージーランド)
ポリネシア諸島の部族には、英雄マウイの伝説が残っている。
マウイは三人兄弟の末っ子で、いつも兄たちに疎んじられていた。彼は、釣りにも連れて行ってもらえなかった。
ある日、マウイが熱心に世話をした祖母が亡くなった。祖母は彼に「私の骨で釣り針を作りなさい」との遺言を残していた。
数日後、祖母のあごの骨で釣り針を作ったマウイは、それを持って兄たちの船に忍び込んだ。
沖に出たところでマウイは姿を現したが、兄たちは、糸は貸してくれても、餌はくれない。
彼はしかたなく自分の鼻を殴っ鼻血を出し、それを釣り針に塗って海に投げた。
まもなく、彼の糸に大物がかかった。兄たちも協力して引き上げると、それは巨大な島だった。
鳥が暴れるので縛ろうとしたが、兄たちは海に落ちて死んでしまった。
残ったマウイは必死で島を縛り、おとなしくさせた。これがニュージーランドの北島である。マウイは鳥の王となった。
また、釣り針は、島を引き上げたとき天高く舞い上がり、そのまま夜空にひっかかり星座となった。蠍座の尾の部分である。
星になったひしゃく… 北斗七星(ロシア)
村のはずれに暮らす母娘がいた。
娘はソニアといい、村でも評判の働き者だった。病気で床に伏せっていた母に代わり、彼女が近隣の農家で働いて生計を支えていた。
ある夜、病状がひどくなった母が、しきりに水を飲みたいと言う。しかし、村は日照り続きで、井戸には一滴の水もない。
小川も涸れはてている。彼女は、山の向こうにある泉まで行くことを決心した。
暗く険しい山道を歩き、やっと泉を見つけ、持参した木のひしゃくに水を汲んだ。
帰路、ソニアに一匹の仔犬がすり寄ってきた。今にも死にそうに弱った仔犬に、惜しげもなくひしゃくの水を与えると、彼女は泉へと戻った水を汲もうとして彼女はびっくりした。
木のひしゃくが銀に変わっていたのである。銀のひしゃくに水を汲み、家の近くまで来ると、今度は老人が近づいてきた。
「お願いだ、お嬢さん。申し訳ないが、その水をくださらんか。喉がカラカラなんじゃ」
ソニアは、迷うことなく老人に水をあげた。
もう一度泉に行くと、ひしゃくは黄金になっていた。水を汲んで家路を急ぎ、待っていた母に水を飲ませると、すっかり元気を取り戻したようだった。
気がつくと、ひしゃくには七つのダイヤモンドが輝いていた。やがて、ひしゃくは天に昇り、夜空に輝く星(北斗七星)となったのだった。
