経営者よ 気概を持て(Vol.4)

根気がなく、粘りのない社員が多くて困っています。

Q 近ごろの若者の傾向かもしれませんが、「何が何でも顧客を獲得してくるぞ」といった気概性と粘りが乏しく、「今日も少ししか営業が回れませんでした」と、さばさばと帰ってくる社員が多くて困っています。何度も注意をするのですが、あまり効果がありません。いったいどうすればいいのでしょうか。静岡県浜松市 T・Yさん(4歳)

A:「企業にとって、優れた人材とは何か?」という問いに対する答えはさまざまでしょうが、今回は特に、「優れた人材であるかどうかの差は、その人間に粘りがあるかどうかが大きなターニングポイントとなる!」ということと、「粘りとは、まさに反復である!」ということについて言及したいと思います。

「営業は、断られたときから始まる!」という名言がありますが、これなどもやはり、粘りがあるかないかが大きな鍵を握るわけです。販売先を新規開拓する場合、ほとんどの訪問先からは、「わが社はもう全部業者が決まっており、間に合っているから結構です」と断られるのがオチだと思います。しかしこんなときでも、ドアに足を押しはさんででも、「どうかそうおっしゃらずに、何とかお願いいたします。ぜひ話だけでも聞いてください!」と、たとえ断られようとも、何回も何回も通いつづけていけば、やがて相手先から、「いやあ、あなたの粘りと根気には負けましたよ。おたくの機種を来期から採用することにしましょう」と言わしめることが可能なのです。

いや、それこそが営業手腕の見せどころであり、何度も何度も反復し、「やり遂げるまで必ず行きつづける!」という、粘りと度胸と気力が必要なのです。

新規開拓とは、こうやって切り開いていくものです。しかし、これらのことはいくら社員に注意してもだめです。

経営者や営業部長や営業課長が率先垂範し、その営業マンを同行させ、実際の交渉の迫力や粘りを体験させる必要があります。

そして、全社的につねに社長が率先して営業の模範となり、そういう粘りの営業の社風を作る必要があります。

口で注意するだけでは、決して優秀な営業マンは育たないのです。また、給与の体系や上司の部下に対するパフォーマンスも大切です。

一生懸命やり、業績を上げる営業マンとそうでない営業マンを、はっきりと区別し、格差をつけるのです。こうして、つねにやる気と情熱を燃やし、怠りは許されない社内の空気を作るのです。

ここで集約深耕という営業形態を紹介しましょう。

これを徹底的に行っていたことで有名なのが、トヨタであり蛇の目ミシンです。完全なテリトリー制で、自分が担当するテリトリーを、隅々くまなく、何回も何回も粘り強く、反復して回りながら、販売していくという方式です。

狭い範囲を一軒一軒チェックし、ライバルの侵入を許さない独自のものです。また、たとえばトヨタの場合など、一軒一軒家をめぐり、車を見て車検の期日をメモし、絶妙な車の買い替え時期に、積極的なセールスをするのです。

さて、何度も足を運ぶことによって、難攻不落な相手から、見事契約を手に入れたという実例は幾多もありますが、戦後最大の呼び屋と言われた、故・神彰氏が、旧ソ連のボリショイサーカスを日本に招聘したときのエピソードを、ここではご紹介したいと思います。

神彰氏はある日、ボリショイサーカスを見て、「こんな素晴らしいサーカスを日本人は見たことがないから、絶対にボリショイサーカスを日本に呼びたい」と思い、「ボリショイサーカス団を日本に呼びたいから、大使にお目にかかりたい」と、直接、旧ソ連大使館に交渉に行ったそうです。

もちろん、面識も何もない神氏は掛け合ってもらえません。

しかしその後、雨が降ろうが風の日であろうが、断られても断られても、一日も欠かすことなく、何十日間も朝九時ぴったりに、旧ソ連大使館に通いつづけたそうです。

そうしたところ、ついに大使は心を動かされて、「あなたが毎朝九時に通いつづけていたのは聞いておりました。

そこまで熱心に、わが国の宝とも言うべきボリショイサーカスをご理解いただき、愛していただき、日本人に絶対見てほしいという、あなたの情熱に大変感動いたしました。

本当に素晴らしいことであり、ありがたいことです」ということで、日本における興行権のすべてを託されたそうです。

その後、実際に後楽園でサーカス興行するための資金集めについても、神氏はものすごい実行力を発揮し、大成功を収めたのです。

この神彰氏の話は、まさに、粘りと反復の最たるものと言えるでしょう。裸貫、何もないところから、圧倒的な粘りと反復によって、道を開いていったので

実は私の祖母も、「そごう」にまんじゅう屋を出店するまでの半年間、断られても断られても、毎日一日も欠かすことなく、担当者に交渉しつづけ、ついに、その担当者に、「もう、わかりました。あなたの粘りと根気には脱帽です。どうか、一番お好きなところにどこでも構いませんから、ご出店してください」と言わしめ、そごうの一番いい場所にまんじゅう屋を出し、その後、大繁盛したそうです。

いずれにしても、この両者に共通していることは、何もないところから、何回も何回も反復して行きつづける粘りと根性によって、大成功の道を勝ち取ったということです。

毎日、「絶対にここを手に入れるんだ!」という、念力にも近い思いが相手にも伝わり、人の心を動かしたと言えます。

粘りと根気と反復が何よりも大切なのだ、ということを、この二例は教えてくれていると思います。

経営者として、社員を優れた人材にするように育成するのもやはり、粘りと反復です。たとえ社員が一回や二回失敗しても、できるようになるまで、また、わかるようになるまで、何回も反復して社員を教育する必要があります。ぜひ大切な社員を、立派にするべく、しっかりと教育していただきたいと思います。

ご健闘をお祈りしております。
(二〇〇四年二月)

従業員にある程度、仕事を任せたいのですが・・・。

Q 私は喫茶店を十店舗ほど経営しているのですが、ちょっと私が足の遠のく店があると、その店は売り上げがだんだん落ちていきます。なんとか経営者である私が行かなくても、売り上げの上がる方法はないでしょうか。宮城県仙台市 N・Mさん(35歳)

A:今まで何度となく申し上げていますが、特に中小企業の経営者は、「現場主義に立たなければ、絶対に会社の実情はわからない」のです。

このことは、全く当たり前のことなのですが、経営者自身がつねに現場へ行き、会社の実情を確認するように努めないと、会社の舵取りは、あっという間に間違った方向に進んでしまう恐れがある、ということなのです。

というのも、社員が報告書どおりに動いているとはかぎりませんし、こちらが指示した内容を、社員が徹底して実行しているかどうかも、確認するまではわからないからです。

ですから経営者は、つねに現場に行き、報告で上がっている内容や指示したことが、きちんと為されているかどうかを、シビアにチェックする必要があります。

そして、できていないときには、厳しくしつけ、できていたら励ましてあげるなど、その場その場で、厳しくも温かい教育をしてあげなければなりません。

さらには、ものの考え方や仕事の優先順位、また、仕事を進める上で、期限を区切って、その期限内に必ず仕事を仕上げていくことの大切さなども、直接身をもって現場で教育をするのです。

こういう経営者のたゆまぬ努力と情熱は必ず社員に伝わり、いざというときに、全社員が一丸となれるのです。

かくいう私も最近、「経営者が現場主義に立たなければ、会社の実情はわか「らない」ということを、改めて痛感したことがあります。

店舗の経営者は、「どうすれば、一人でも多くのお客さまに来ていただけるのか」また、「どうすれば、一度来ていただいたお客さまに、もう一度、足を運んでいただけるのか」ということをつねに考えているものです。

ですから、お店の看板一つでも、「ここの看板を見て来ました」と言って来店してくださるお客さまが、一人でも二人でも増えてほしいのです。

ということは、オシャレでかっこいい看板より、わかりやすくて、よく目立ち、印象に残る看板を経営者は欲しいわけです。

「業界一目立つ看板」がポリシーである私は、電飾やイルミネーションをいっぱい使用した看板を、社員に任せながらも、最終的には、いつも自ら現場に立ち、直接指示して製作し、大きな効果を得ているのです。

ところが先日、私が経営する銀座の店舗に立ち寄ったとき、そこの看板があまりにも地味で、全く目立たないものだったのです。

しかも、せっかく銀座に店舗を出しているのに、そこは人通りのあまりない、とても一等地とはいえない物件だったのです。

私が現場で、最終的に確認すればよかったのですが、このときは、海外出張等の理由により、ある程度社員に任さざるを得なかったのです。

もちろん社員に指示を出し、社員からの報告に目を通して確認していたのですが、この改めて、「経営者が現場主義に立脚しないでいると、会社の実情は途端にわからなくなる…………」ということを、痛切に感じた次第です。

とにかく私は、早速その店舗の責任者を呼び、現場で直接指示を出して、看板をすぐに取り替えさせたことは言うまでもありません。

もう一つの出店場所についてですが、経営者は、たくさんのお客さまにご来店いただくために、必ず、一等地に店舗を構えようとするものです。

「一に立地条件、二に立地条件、三、四がなくて、五に立地条件」と言われるくらい、一等地に出店することが何よりも大切であり、それがすべてです。

逆に、安くて広いからといって、人通りが少なくて、駅から歩いて十分も二十分もかかるような、立地条件の悪い場所を借りてしまったら、人はもちろん来ませんし、従業員も行きたがりません。

取引先なども、だんだん足が遠のいて、その結果、すべてが悪循環となり、やがて、ジリ貧になっていくのです。これでは、その店舗経営は失敗です。

必ず成功させる経営者は、たとえ小さな店でもいい、立地条件が最高によく、人・物・金がいっぱい集まってくるような一等地を、自ら足を運び、他の業者を押し分けてでも、その一等地を必ず手に入れます。

そして、そのために必要な資金を、何が何でも捻出しようとします。それくらいの根性と粘りと度胸のある人間でなければ、絶対に会社は成功しません。

たとえ小さな場所でも、一等地はすべてがいい回転をしていますから、ちゃんと努力をしていると、やがて黒字になり、必ず赤字を取り戻すことができます。

いま述べたことを、従業員に何度も話をし、また、私自身が身をもって教えているのですが、この件についても、経営者が現場に足を運ばないだけで、会社の実情がわからなくなるものなのです。

逆にいえば、社員の報告だけを頼りにしていてはいけない、ということは、永遠不滅の中小企業の真理だと思ってください。この店舗物件については、一等地の物件が見つかるまでは、今の場所で、より多くのお客さまに来ていただく最大の努力をし、一等地の物件が見つかり次第、そこに移転するよう、社員にすぐ指示を出したのです。

このように、中小企業の経営者は、つねに現場に足を運び、会社の実情を確認する努力をつづけなければならないのです。

社員にある程度任せたいというお気持ちはよくわかりますが、一流上場企業のように、優れた人材がたくさんいるわけではありません。

だから、必ず根気よく現場主義を貫いて、店舗を成功させてください。

ご健闘をお祈りしております。
(二〇〇四年三月)

計数に強い経営者になりたいのですが……。

Q 私はやがては独立して会社を立ち上げようと思っています。そこで、財務や計数に強い経営者になりたくて、書店でそれに関する本を買っては来るのですが、なかなか思うように理解できません。何かいい方法はないでしょうか。大阪府大阪市 T・Nさん(27歳)

A:確かに、経理や財務を抜きにしては会社の経営はできません。

会社の活動はすべて、資金の流れで計算できるわけですから、経営者は損益計算書と貸借対照表、さらには、平均の粗利率や在庫量、商品の回転率等を正確に読み取り、会社全体がもうかっているのかもうかっていないのか、また、どこをどのように改善すればいいのかを、具体的な数値で掌握しなければなりません。

私も会社を創設したころ、一日も早く計数に強い経営者にならなければと思い、経理に関する書籍を、図解入りのものも含めて、かたっぱしから買ってきては読んだものです。

しかし、私の疑問に答えてくれる本はほとんどありませんでした。それに、会社を経営している方はおわかりのことと思いますが、会社を立ち上げたころは特に、毎日が徹夜つづきであまりにも忙しく、本を読んでいる時間が思うように取れないのもまた事実です。

もちろん、経理と財務を専門に会社経営をするわけにもいきません。

そこで私は、せっかく顧問の税理士がいるのだから、損益計算書や貸借対照表について、一つずつの項目やその見方等を、税理士にわかるまで徹底的に聞いて確認したのです。

そうしたところ、一見難しそうに見えていた単語や語句も、「要するに、これはどういうことですか」という観点から質問をし、「要するに、こういうことです」というように、税理士から一つずつ説明を受けると、すべてが実に簡単なことだったのです。

そうして、その日のうちに損益計算書も貸借対照表も、そして、言葉の意味も見方もほぼ完全に理解することができたわけです。

ですから、「計数に強くなりたい」ということでしたら、税理士か経理に詳しい方に、直接聞いて確認することがもっとも早く、しかも、正確に理解できる方法だと思います。

今後、会社を経営していくなかで、わからないことが出てきたら、その都度、税理士にこまめに電話で聞いて確認すれば、あっという間に、計数に明るく、財務に精通した経営者になれることでしょう。

ところで、経営者が計数に弱いと資金繰りも圧迫しますから、世間では、「企経営でもっとも大切なのは資金繰りである」ということがよく言われております。

確かにそのとおりであり、資金繰りが上手くできなければ、会社倒産の憂き目にも遭いかねません。

しかし、企業経営でもっとも大切なことは何かといえば、それは、「売り上げが上がりつづける」ことなのです。

これは、私の今までの著書やこの本でも、何度となく申し上げていることです。まさに、永遠不滅の法則といえるものです。

売り上げが上がり、さらに粗利が取れて利益が上がりつづけていれば、資金繰りで困ることはまずありませんし、資金繰りも楽しくなるわけです。

逆に、売り上げが上がらなかったり、粗利が取れなかったりすると、当然のことながら、会社はだんだんジリ貧状態になっていきます。

そして、毎月毎月が自転車操業となり、最終的には倒産してしまうのです。ですから、資金繰りで頭を悩ます以上に、売り上げが上がりつづけ、利益が十分に取れつづけていくことが、会社経営にとっては何よりも重要なことだと言えるのです。

計数に強くなりたいと、あなたがおっしゃることはもっともであり、経営者は財務や計数に強くなければなりません。財務管理ができて初めて、会社の経営方針が明確に打ち出せるからです。

しかし、それ以上に、経営者がつねに考えなければならないことは、今まで申し述べてきたとおり、「粗利の取れる売り上げを上げつづける」という積極策しかないのです。

それがあっての財務管理です。同業他社やライバルが多いなか、会社を圧倒的に成功させ、さらに発展させていくためには、粗利の取れる売り上げを上げつづけるという一点において、経営者は四六時中、情熱と研究とエネルギーを保ちつづけなければならないのです。

とにかく経営者は、経理や財務に強くなければなりませんが、それ以上に、企経営でもっとも大切なことは、粗利が取れる売り上げを上げつづけることだということをしっかり念頭に入れて、会社経営に頑張っていただきたいと思います。

ご健闘をお祈りしております。
(二〇〇四年四月)

外資系の企業に飲み込まれそうです。

Q 私の経営する業種に、外資系企業が大きな資本力をもって進出し始めており、次第に経営が圧迫されつつあります。いろいろと手は尽くしているのですが、不安でたまりません。愛知県名古屋市 T・Mさん(4歳)

A:会社を創設した初めの約十年間、私は国内におけるメーカー、問屋小売など、さまざまな業種をいくつも経験してきました。

もちろん試行錯誤もありましたが、それらの経験をすべて活かし、やがて業界でトップになるノウハウを確立し、いまなお、業界のトップを維持しております。

私が国内から海外に向けて本格的に進出するようになったのは、会社創設の十一年目くらいからですが、外資系、特に欧米人と仕事をしていて強く感じるのは、なんといっても向こうは、「圧倒的なスケールとパワーとダイナミックスでガンガンに推進してくる」ということです。

これは外資系企業や欧米企業の特徴というよりも、欧米人、特にアメリカ人の性質であり、ものの考え方でもあります。

そもそも外資系企業は、たとえば、ある企業目標のために、いまの従業員で十分な成果が期待できないということになれば、給料を二倍出してもいいから、能力のある優秀な従業員に全員を入れ替えて、目標達成のために最短距離で進めていくのです。

いわゆる、タイム・イズ・マネーという、外資系、欧米型企業の考え方です。信賞必罰を徹底することで、アメリカはつねに世界をリードしてきたわけですから、企業がトップでありつづけるためには、これが最短の方法なのかもしれません。

しかし、この考え方がすべてではありません。従業員を立派に育て、社員全員で目標に向かって頑張っていこうという、日本型経営ももちろん、素晴らしい面がいっぱいあります。

欧米の企業でもこのやり方を取り入れて、大成功している会社がたくさんあるのです。

ただ、日本型経営では、一つの大きな目的に向かって、大胆に決断し、大胆に実行していくという、スケールとパワーとダイナミックスに、どうしても欠ける面があります。もっともいいのは、欧米式と日本式の融合です。

ですから、われわれ日本の企業は、欧米やアメリカがスケールとパワーとダイナミックスで進めてくるのであれば、欧米やアメリカ以上に、もっとスケールをでかく、もっとパワーを強く、もっと大きなダイナミックスで推進していく必要があります。それを、スケールとパワーとダイナミックスが足りない分、精神力と技術で補おうとするのはだめです。

それでは、決して世界をリードできません。

精神力と技術でチームが一丸となる高校野球より、池田高校の蔦元監督のように、パワーとスケールとダイナミックスをベースにした高校が、春夏連続優勝を遂げるのです。

「何かの替わりにこれがある」というのは、二流の発想で優勝できません。

全国制覇し、さらに連続で勝つためには、「あれもあり、当然これもある」という、すべてが兼ね備わったものが一流の発想です。これが全国優勝できる発想なのです。

だから、スケール、パワーとダイナミックスに加え、さらに、日本人の精神力ときめ細やかな技術力等をプラスすれば、絶対に外資系企業に勝てるはずです。経営者がそれだけの気概をもたなければ、あっという間に外資系に飲み込まれてしまうのは自明の理です。

世界の大企業であるソニーやトヨタ等を見れば、経営者がいかにこの気概をもたなければならないか、ということがよくわかります。

今回はそのなかでも、ソニーの創業者である盛田昭夫さんのエピソードをご紹介したいと思います。

盛田さんも武勇伝がいっぱいある人で有名ですが、一九六二年にニューヨークではじめてソニーのショールームを開設するときに、盛田さんはなんと、「ティファニー」や「カルチェ」などの超高級ブランド店が立ち並ぶ、マンハッタン最高の一等地・ニューヨーク五番街をショールームの場所として選んだのです。さらにはその入口に、日本国旗を掲げたというのです。

出店場所として、ニューヨーク最高の場所を選び、さらにその店の入口には、戦後のニューヨークがはじめて目にする日章旗を堂々と掲げたというのです。

これを見れば、盛田さんの圧倒的なスケールとパワーとダイナミックスと、さらには、「世界に負けるものか!」という度胸と根性を感じます。

これらのものがなくして、盛田さんの行動はなかったわけです。その上に、他の追随を絶対に許さない高い技術と、日本人としての精神性があったからこそ、ソニーは「世界のソニー」になったといえるのです。

さて、日の丸を店の入口に掲げたことがアメリカで報道されるやいなや、新製品である十三インチの小型テレビは、またたく間にアメリカ家庭に広がっていったそうです。大変に有名な話です。

これは盛田さんのエピソードのほんの一例にすぎませんが、もちろん、盛田さんだけではなく、松下幸之助さんや本田宗一郎さんなど、その分野で世界一の大企業をつくってきた偉大な創業者たちは、みんなそうだったわけです。

成功するかしないかは、すべて経営者次第です。特に何もないところから企業をつくってきた創業者はみな、圧倒的なパワーと気迫、スケールの大きさがあるのです。

だからこそ、世界をリードしているのです。

「外資系に飲み込まれそうだ」と弱音を吐く前に、いままで申し上げた、圧倒的なスケールとパワーとダイナミックス、さらに、日本流のきめ細やかさと精神力で、もう一度、経営を見直していただきたいと思います。

そうすれば、必ず成功するはずです。ぜひ、頑張ってください。

ご健闘をお祈りしております。
(二〇〇四年五月)

経営者には、ひらめきと直感が必要だと思うのですが…….

Q 一流といわれる経営者はみな、素晴らしいひらめきと直感をもっていると思います。そこで私も、ひらめきと直感を磨きたいのですが、どのようにして磨けばいいのでしょうか。いい方法がありましたら、ぜひ教えてください。神奈川県川崎市 T・Kさん(35歳)

A:確かに経営者にとって、ひらめきと直感はとても大切なものです。めまぐるしく動く日々の経済情勢と、同業他社がひしめき合う危機感のなかで、経営者は次々と迅速な決断と指示を出し、そして、実行に移していかなければなりません。

みんなの叡智を結集することはもちろん必要ですが、最終的には、経営者自らが、ひらめきと直感と才覚をもって、次々と判断していかなければならないわけです。

もし、まちがった判断をして会社を倒産させてしまえば、自分はもちろんのこと、全従業員とその家族を路頭に迷わせることになってしまいます。

経営者にはそれだけの重い社会的責任があります。ですから、「素晴らしいひらめきと直感を磨きたい」というお気持ちは、とてもよくわかるのです。

しかし、「ひらめきと直感だけに頼った会社経営は非常に危険である」ということと、「企業をもっと発展させていくためには、ひらめきと直感だけの経営では絶対に不可能である」ということを、ここではっきりと申し上げておきたいと思います。

先述しましたように、経営者にとって、ひらめきと直感は確かに大切なものです。しかし、だからこそ、経営者が磨きつづけなければならない、もっと大切なものがあるのです。

それは、「幅広い学識と知力」であります。以前、「本物のひらめきと直感とは、自分の豊富な人生経験と、深い学問と知力から、自然とにじみ出てくるものである」と申しましたが、全くそのとおりなのです。

どんな企業でも、初めは小規模からスタートしているはずです。しかし、小さいままで終わってしまう企業もあれば、どんどん発展させていく企業もあります。

おそらく、ひらめきと直感と才覚があるところまでは、みな同じだと思います。

ところが、企業をますます発展させる経営者には、それにプラスして、表現豊か説得力と、要約し本質を見極める学問、また情報を集めて探求し、問題を解決しつづける粘り強い知力が必要で、それを実行しつづける刻々の努力や度胸が必要なのです。

つまり、超一流の経営者たちは、直感や自分の経験だけに頼るのではなく、日々、ありとあらゆる本を読み、特に、人類が残した叡智の結晶である古今東西の古典を読破しているのです。

それに加えて、謙虚に人から意見を聞き、正確な情報をつねに収集しています。

これらは本物の正しい直感やひらめきを得るための前提条件となるものです。

では、ひらめきや直感そのものは、どうすれば得られるのでしょうか。三つの角度からお答えしましょう。

まず宗教的な悟りや芸術的なひらめきは、天上界や天使によってもたらされると言われていますが、事業家のひらめきは、多くの場合、先祖霊を中心にした背後霊団によってもたらされると言われます。

多くの経営者が事業に行き詰まった時、先祖の墓に参り、それから事業が順調に行くようになったとか、いいアイデアがひらめいたと証言しています。

また、お不動さんの日切り祈願や有力な産土神社(鎮守様)の二十一日祈願の満願の日に、ひらめきや直感があって決断し、それで成功したという人も多いのです。

これら、多くの経営者による実体験の証言は、ひらめきと直感に関する大きなヒントになると思います。

二つ目は「雑用は判断の揺りかご」という考え方の角度です。この言葉は、本当に正しい直感やひらめきとは、正しい判断力を生むものであることです。

また、「生活の智恵」という応用工夫のひらめきや、実体験の実務の上に現れる叡智のことでもあります。それが、つねに正しい判断をする本になるのです。

では、これはどこで生まれるものなのか。それは、雑用や仕事の後始末などを、黙々と実行している時に生まれるのです。

だから、経営者は雑用を厭わず、率先垂範して体を使い、汗を流し、雑用、雑務に励むべきなのです。白隠禅師の言う「動中の静」に近い積極的な無の空間を作るのです。

だから、その積極的な無の空間にひらめきや直感がやってきやすいのです。神道では、それを奇魂の働きと言ったりします。

三つ目は釈迦の言葉です。仏教では教誠神通と言って、「人間としてあらゆる努力をし、さらに一層努力し、その上に一層努力に励む時に出てくる直感力。これが本物である」と言っています。

つまり、ビジネスでは人の三倍汗水垂らして働き、また人の三倍研鑽に励む時に出てくる直感力こそが、事業を成功に導く直感力であるということです。

正しい直感力とひらめきの前提と本質は、こうして結びつくのです。以上のことを頭に入れて頑張ってください。

成功をお祈りしております。
(二〇〇四年六月)

社員の定着率を上げるには、どうすればいいのでしょうか?

Q 中小企業の経営者です。最近は業績もだんだんと上向き、経営的には安定してきているのですが、どういうわけか社員がいつかなくて困っています。東京都大田区 N・Yさん(48歳)

A:私はいつも、「販売管理」、「財務管理」、「労務管理」、「資金調達」、「税金対策」経営の五大柱と言っています。

会社をゼロから興して経営していくためには、経営者が必ず覚えておかなければならないことです。そして、この五大柱をバランスよく実行し、運営していくことが、経営というものだと思っていいのです。

さて、社員の育て方や社員の定着率という「労務管理」にお困りのようですが、中小企業の経営者が集まる席では、つねにこの話題がのぼります。それだけ、中小企業にとっての共通の悩みの種なのです。

では中小企業で、社員の定着率をよくする方法は何かと言えば、それは、「温かみのある、社員との家族的なつながりを大切にする会社づくり」をするしかないのです。

私はよく、大企業に行く人と中小企業に行く人の違いについて話をします。最近は、中小企業でも特色ある会社の魅力をアピールする所には、優秀な大卒者が行く場合があります。

しかし、ほとんどの場合は、知力、体力、精神力の三拍子揃った大卒者は、有名な大企業に行くのが通例です。

そして、中小企業に行くのは、何らかの事情でそこをやめた人か、知力か体力、精神力のどれかが足りない人、または、協調性の欠如のために、大きな組織でやっていけない人などが来るのです。

優秀な高卒なら、かえって理屈が多くて行動力がない大卒よりは、余程いい社員と言えますが、なかなかそういう人とも巡り会えません。

また、概して、知力が抜群に秀でた人が少ないということでもあります。即ち、感情豊かな人が多いというのが、中小企業の社員の特徴でもあるのです。

ですから、中小企業において社員の定着率を上げるためには、「感情的に満たされる温かい社風にする」、または、「温かみの感じられる、家族的なつながりのある会社づくりに努める」ことが大切なのです。特に、社長の人柄に惹かれてずっと会社で頑張る社員が多いのも、中小企業の特色です。

そのためには、「社員一人一人に対する、公私にわたる面倒見の良さ」が必要なのです。

たとえば、「世界のホンダ」も、小さな町工場からスタートしたわけですが、やはり、本田宗一郎氏の圧倒的な人間的魅力に惹かれて、社員がついていったわけです。

本田氏には有名なエピソードがたくさんありますが、そのなかでも、海外から来た大切なお客さまが、昔ながらの「おつり式トイレ」に入れ歯を落としてしまったときの話が、大変印象的です。

なんと、その時本田氏は、自ら裸になって、昔の汲み取り式のトイレの、肥の中に入って手探りで入れ歯を見つけ出し、さらにその入れ歯をきれいに水洗いし、しかも、本人に渡す前に自分がはめてみて、「ほら、大丈夫だよ。はい」と言って渡してあげたというのです。

そのトイレのある料亭の人も、他の社員も、ただただ呆然と見ているしかなかったそうです。

それ以来、そのバイヤーはすっかり本田氏の大ファンとなり、どんなことがあってもホンダを大切にしたといいます。

このエピソードからもおわかりのように、中小企業は、「温かみのあるこの社長についていこう」、「温かい自分の親父やお袋のような社長のいる会社に、これからもずっとお世話になろう」と、社員が思える社風が絶対に必要なのです。

本田宗一郎氏や松下幸之助氏といった人たちも、はじめは小さな町工場からスタートして、やがて大企業に成長させていったのですが、やはり、社員や取引先の面倒見が大変良く、経営者としての商才と、そういう人間的魅力が相俟って、多くの人がついていき、会社が大発展していったのです。

人間的魅力にあふれる経営者の話をもっとご紹介したいのですが、紙面の都合もあり、ここまでにしますが、とにかく、温かい社風づくりをめざして、社員の面倒を公私ともによく見て、ぜひ頑張っていただきたいと思います。

ご健闘をお祈りしております。
(二〇〇四年七月)

「経営者は気概を持て!」と言われますが、いったいどういうことでしょうか?

Q 業績が今ひとつ伸び悩んでおります。経営者仲間からは、「とにかく経営者は気概を持て!」と言われるのですが、いったいどういうことでしょうか?神奈川県横浜市 S.Yさん(38歳)

A:あらゆる分野でテクノロジーが長足の進歩を遂げている昨今、経営者の中には、

「気概を持てなどという考え方はもう古い」と思っている方は多いのかもしれません。

しかし、こんな時代だからこそ、経営者は気概を持ちつづけなければならないのです。もちろん、「気概を持て」という言葉の中には、「あらゆるものにチャレンジしていく精神力と度胸と粘り、そしてロマン」等の意味が含まれることは言うまでもありません。

ですから、もしも経営者に気概がなくなってしまったら、その会社は滅んでいくしかないのです。これについては、いままでの私の著作やこの本でも、折にふれて述べつづけていることでもあります。

企業をゼロから創業し、さらにその企業を発展しつづけてきた人は、誰もがまちがいなく大きな気概性を持っています。

どんなものに対しても、どんな相手であっても絶対に負けないだけの、圧倒的な気概性とそれを現実化させる説得力や実行力があるのです。

松下幸之助氏や本田宗一郎氏、盛田昭夫氏といった方を見れば大変よくわかるはずです。この人たちの気概性が、世界の松下や世界のホンダ、世界のソニーをつくりあげてきたと言っても過言ではありません。

本田宗一郎氏にはこんなエピソードがあります。

まだバイクしかつくっていなかったホンダが、「これからは自動車もつくろう」と、当時の通産省に申請に行ったところ、「自動車メーカーはすでにたくさんあり、過当競争になるので許可できません」と言われたそうです。

そこで本田氏は、ホンダの乗用車進出を認めようとしなかった当時の通産省事務次官のところへ直談判に行き、大論争を起こしたのです。

「あなたのようなビジネスも知らない青二才から、そんな偉そうなことを言われる筋合いは全くない。私たちには自動車をつくる権利があるのだ。

既存のメーカーだけが自動車をつくって、われわれが自動車をつくってはいけないとは何事だ。そんなに言うのなら、通産省が株主となって、株主総会でものを言え。われわれ本田技研はきちんと税金を納めて事業を展開しているのだ。もし失敗したら失敗したで、自分たちがダメになるだけなのだ。いったいあなたたち官僚に、そんなことを言う権利があるのか」と。

そうしたところ、その事務次官は、「本田さんのおっしゃるとおりです」ということで、自動車の生産が許可されたのです。

トヨタとホンダが国内のみならず、世界の乗用車をリードしている現状は、もちろん皆さん周知のとおりです。

もしも本田氏に気概がなく、あの時に官僚に言われたからと引き下がっていたら、今日の自動車メーカーとしての大発展はあり得なかったわけです。

盛田氏の気概性については、ソニーのショールームを初めてニューヨークに開設したときのエピソードを以前もお話し申し上げましたが、今回はもう一つ、別のエピソードをご紹介したいと思います。

ソニーのある製品を海外で生産したときに、「メイド・イン・○○」とかの生産証明を記載しなければいけない、と当時の通産省から言われたそうです。

しかし、「何だ、○○製か」ということで、製品の値打ちが下がってしまうことを危惧した盛田氏は、当時の通産大臣まで直談判に行ったのです。「あなたが国会で報告したり答弁したりする資料は、すべてを自分で作成しているわけではないでしょう。

それをいちいち、「この報告書は官僚の誰々がつくりました」と言いながら報告したり答弁したりするのですか。

言わないはずです。

なぜならば、その報告や答弁は大臣の名において全責任を持つからです。責任が持てないものについては発言しないでしょう」と言ったわけです。つまり、「ソニー製品もそれと同じだ!」というわけです。「ソニーと名がつけば、ソニーが全責任を持っってください。

品質管理するのだから、そこの何がいけないんだ」と。

そうしたら、「盛田さんのおっしゃるとおりです」ということになって、盛田氏の言い分が認められたのです。

これなども、相手が大臣であろうと誰であろうと、盛田氏が気概を持ってぶち当たったからこそ、道が開かれたのです。

これこそが、経営者としての責任であり、気概であり、度胸であり、実行力なのです。

このように見ていきますと、いかに経営者には気概が必要かがよくおわかりいただけると思います。

すべての成功する要因は、経営者の気概に吸い寄せられていくのです。そして実際に整っていくのです。のるか反るか、勝つか負けるか、成功するか失敗するか、まずは経営者の気概にかかっているのです。

「経営者は気概を持て」とはそういうことです。ぜひ、何ごとにもめげずに頑張ってください。

ご健闘をお祈りしております。
(二〇〇四年八月)

お山の大将にならないためには、どうしたらいいのでしょうか?

Q 私は社員十数名の会社の経営者ですが、最近、経営者仲間から、「お前は近ご天狗になっている、お山の大将になっている」と言われてしまいました。自分ではそうならないように気をつけているつもりなのですが、お山の大将にならないためには、いったいどうしたらいいのでしょうか?広島県広島市 HTさん(35歳)

A:すべての経営者が、お山の大将になったり、天狗になったりするわけではもちろんありません。

しかし、会社の経営がある程度軌道に乗ってきたころに、特に中小企業の経営者が陥りやすい問題点でもあるのです。

会社をゼロから立ち上げてきた人たちは、少ない社員と一緒になって、昼夜を問わず一生懸命になって働き、会社が成功するまで絶対にやめないという、ものすごい精神力と粘りと責任感、ド根性があります。しかしその反面、会社がうまく回り始めると、中小企業の経営者は、お金も時間も当然ある程度自由になりますし、社員は自分の思いどおりに動かせますから、どんなわがままを言っても、それが許される環境になってしまうわけです。

ある程度のわがままは必要なのでしょうが、それがどんどん進んでしまいますと、頭を下げて教えを請うとか、人から謙虚に学ばせていただこうという姿勢とか、より高い次元からものを考える習慣や考え方など、ともすると、見失いがちになってしまうのです。

しかしそうなってしまっては、すべてが頭打ちとなり、人望に翳りが生じ、社員が離れていくことになります。

そして、人間としての進歩や向上も、そこでストップしてしまいます。

そこで、お山の大将や天狗にならないために、ライオンズクラブやロータリークラブなどに入る、という方法があります。

実際、多くの経営者の皆さんは、ライオンズクラブなどに入って、自分がお山の大将にならないように努めているのです。

そういうクラブに入りますと、同じような中小企業の経営者がいっぱいいますし、大企業の重役や社長も当然いるわけです。

年齢も経験も圧倒的に上の人もたくさんいますし、この道何十年という大ベテランももちろんいます。

そういう大先輩にはどう太刀打ちしてもかなわないから、自然と頭を下げるようになりますし、会議で決まった結果が自分の意に反していても、素直に従うようになっていきます。

そうやって、礼節を踏まえてお仕えできるようになっていくのです。

これが、ライオンズクラブやロータリークラブに参加する意義ですし、実際、ライオンズクラブなどの会員さんもそうおっしゃっています。

協議していくなかで、へりくだってお仕えしていく自分や、素直に従っていく自分、つまり、従業員と同じ立場の自分や人間本来の姿が回復できるわけです。

実はこれが、お山の大将や天狗にならないための、大変に重要な要素です。

また、お山の大将や天狗にならないための、もう一つの方法をお話しいたしますと、それは、古今東西の古典を徹底的に読破し、真実の学問と教養を身につける、ということであります。

前に、元経団連会長の平岩外四氏のことをご紹介いたしましたが、彼がなぜ、圧倒的な実力者であるにもかかわらず、誰よりも謙虚に、どんな人からも、どんなことからも学びつづけることができたのかと言えば、日本や中国、そして、西欧の古典をことごとく読破し、そこから人類の叡智を吸収して、真実の学問と教養を身につけていたからなのです。

まさに、君子の気風泰然とし、淡々とし、英明自ずから謙譲に漂う、という態であります。

そもそも、超一流の経営者や管理職で、お山の大将や天狗になって、ふんぞり返っている人は、見たことがありません。時々いますが、最後は失脚しています。

ほとんどは、逆に恐縮するくらいに謙虚で、腰の低い人たちばかりです。

それは、真実の学問と深い教養に裏打ちされた、本物の人物だからです。

これは、経営者や管理職に限らず、昔の禅僧や大政治家などの本物の偉人たちはみな、一番偉いがゆえに、一番へりくだることができたわけです。

お山の大将にならないためには、他にも、芸術やスポーツなど、いろいろな先生のところに入門して教えを請うなど、方法はたくさんありますが、また別の機会にお話しできたらと思います。

とにかく、みな自分の内面を徹底的に磨くことによって、人間としての器を大きくしてきたわけです。人間としての内面や中身こそが、経営者に最も大切なものなのです。

お山の大将や天狗にならないために、今回は、ライオンズクラブやロータリークラブに入るという方法や、古今東西の古典を読破して真実の学問と教養を身につけるという方法をご説明いたしましたが、お山の大将とは、自分が築いた山しか知らない、無知から生ずるのです。

だから、より高くて広い知識から学び、人から学べば、天狗になることはないのです。ぜひ実践して、器の大きい立派な経営者をめざしていただきたいと思います。

ご健闘をお祈りしております。
(二〇〇四年九月)

社員に同じことを何回言っても、なかなか言うことが聞いてもらえなくて困っています。

Q 約三十名いる社員をしっかりと育てなければならないと思うのですが、どの社員も何回同じことを言っても、なかなか言うことを聞いてもらえなくて困っています。いったいどうしたらいいのでしょうか?愛知県名古屋市 J・Nさん(4歳)

A:実はこのご相談の内容は、中小企業の経営者が持つ共通の悩みでもあります。

もともと中小企業には、何らかの事情で大企業をやめた人とか、知力か体力、精神力のどれかが不足している人、あるいは、協調性が欠如しているために、大きな組織ではうまくやっていけないような人、または家族・親戚か友人などが来るものです。

ということは、大企業に行くような優秀な社員が少ないというのが、中小企業の現状だということです。

これについては、今まで何度もお話し申し上げましたが、まずそのことをしっかりと認識する必要があります。

たとえば、一社員が何かミスをしたとき、大企業ならば、社員がみな優秀ですから、全員を集めて全体的に注意をしたり、説明したりすれば、直ちに留意事項等が全社員に行き渡るでしょう。

しかし中小企業で、「実は先日、○○君がこんなミスをしたけれども、あの時はこうすべきだった」などとみんなを集めて注意をしても、ほかの社員は他人事のように聞き、ほとんどがピンとこないでしょう。

当の本人も、「えっ、そんなことがありましたでしょうか?そう言えばそうかなあ」ということになるのが関の山です。

それだけ中小企業では、「十を聞いて一か二を知って、八~九は抜けていく」という社員が多いのです。時に優秀な社員がいると、お客さんを連れて独立したり、引き抜かれたりするものです。

そういう普通の社員を育成する方法としては、経営者や上司が、その場で即刻社員に範を示し、できれば人のいないところに呼んで、「ほら、このようにやってごらん」と、具体的に、愛情をもって反復し、何回も根気よく教えてあげなければならないのです。

そして、実際に社員にさせてみて、それができるようになったら、「よくできたね。これからもこの調子で頑張るんだよ」と、温かい言葉を必ずかけ、褒めて励ます必要があります。

このように、中小企業で人材を育成していくためには、現場主義と率先垂範、そして何よりも、出来の悪い我が子を育てる母親の根気、父親の忍耐とビジョンや信頼という、家族主義がいるのです。

一度教えたからと言って、すぐにできるようにはなりません。それが中小企業の社員なのですから、何回も粘り強く、そして根気よく、育成してあげなければならないのです。

「記憶の効率」という言葉がありますが、「どんなことでも、だいたい四十八回、何度も反復していけば、必ず覚えられるようになるし、必ずできるようになる」と言われています。

これは、私も経験上、まちがいないと確信しています。別な人は二十七回という人もいます。

経営者や上司が、社員に四十八回言いつづける根気と愛情があれば、やがて社員は、必ずできるようになります。

しかし、あまり口うるさく言い過ぎると、社員は全く言うことを聞かなくなりますから、注意が必要です。

聞いているふりをしているだけで、注意する内容が、本人のなかに全く入っていかなくなるばかりか、反抗心さえも芽生えてしまうのです。

そういうときには、いったん注意するのをやめて、自分なりの意見を本人から言わせるのが得策です。

実際、多くの経営者もそうしていると聞きます。ただし、すぐにできるわけではもちろんありませんから、また注意したくなるのですが、それでは、さらに言うことを聞かなくなりますから、ここはぐっと辛抱して、自分から次にどうするかを言わせるようにするのです。

その繰り返しを、まさに一項目につき四十八回やりつづければいいわけです。

自分から意見を言わせて、約束させて、上の人間がふだんは一切ガミガミ言わないで、一緒になってやってみるのです。だいたい割合は八対二ぐらいで、八が褒めて励まし、二が注意して怒るのです。これなら聞いてくれます。それは身内であっても、どんなに親しい人であっても同じです。

以上述べてきたように、中小企業の社員には、愛情をもって根気よく、ふだんはあまりガミガミと言わないで、四十八回反復して、現場でその都度、具体的なやり方を示して注意していく姿勢が必要です。

それが、中小企業の経営者の大切なパフォーマンスなのです。

社員の教育や育成も会社の経営同様、大変細かく地道なことの積み重ねです。

しかし、このきめ細やかな指導と育成こそがすべてであり、細かいことの反復練習を、社員全員に徹底して行き渡らせている会社は、必ず伸びているし、成功しています。

いったん預かった社員です。本当に手はかかるでしょうが、ぜひ愛情をもって、しっかりと社員を育成してあげてください。

ご健闘をお祈りしております。
(二〇〇四年十月)

経費削減の徹底化を図ったら、社員の士気まで下がってしまいました。

Q 先日、経費の見直しをしたら、思った以上に節約できる部分が見つかったので、しばらくの間は経費削減を全社員に徹底させました。しかし、会社全体が沈滞ムードになり、社員の士気も下がってしまいました。いったいどうしたらいいのでしょうか?香川県高松市 H・Nさん(45歳)

A:このご相談の内容は、どの経営者の皆さんも、実に頭を痛める問題です。

しかし、経営者にとって最も大切なのは、私のいままでの著書でも、何度となく申し上げているように、経営の五本柱をバランスよく実行する、ということであります。

経営の五本柱とはもちろん、「販売管理」「財務管理」「労務管理」「資金調達」「税金対策」のことですが、そのなかでも特に、「販売管理」が一番大切で、会社はつねに売り上げが上がりつづけていなければなりませんし、粗利益が取れつづけていなければなりません。

「販売管理」がどんどん先行していけば、全社員も一丸となって、生き生きと頑張れる環境をつくることもできるのです。

この大原則を見忘れて、どれかの項目だけに目を奪われてしまいますと、管理のための管理となり、やがて会社は、ジリ貧状態に陥ってしまうのです。

しかし、経費の削減は、会社にとって必要であることに変わりはありません。そこでまず、「必要な経費」と「余計な経費」を見極める必要があります。

必要な経費とは、売り上げや収入を上げるための経費であり、かつ、顧客を増やすための発展的な経費です。

固定費と変動費で見れば、売り上げが上がるにしたがって増えていくのが変動費です。それらは、会社の進歩向上発展のためになくてはならない経費ですから、これらの必要な経費まで削減してはならず、逆に、資金や人材、時間、エネルギーなどを、一層注がなければならないのです。

必要な経費まで削減してしまいますと、やがて会社はジリ貧状態になってしまい、社員はもちろんのこと、会社全体の士気や元気、やる気、エネルギーなども削がれ、発展力がなくなってしまうのです。

ですから、あくまで削減するのは余計な経費であって、必要な経費まで削減してはいけないのです。

次に、余計な経費の削減についてですが、特に消耗品について、社員に複数の業者に対して相見積をシビアに取っているかを確認していただきたい。相見積は、どの企業でも当たり前に行っているはずですが、たとえば、コピー用紙代にしても、年間を通して、何百万枚も使用する企業ですと、用紙代の単価が一円安くなっただけで、年間で何百万円の経費が削減できるのです。

それだけの枚数を使用するのは、大企業なみかもしれませんが、これだけの枚数を使用しているからこそ、納入業者に対して強気で交渉できるとも言えます。

さて、「コピー用紙代の単価を何とか一円でも下げていただけませんか」とA社に交渉したとすると、決まって、「いやいや、弊社もこれ以上下げようがないところまで、精一杯、誠心誠意の額を提示させていただいておりますので・・・・・・」と言ってくるものです。相手の営業の側に立った場合、そう応えるのが本当であり、そう応えないと営業マン失格です。だからこそ、同業他社のしかも、シェアー競争をしている企業に、全く同じ条件で、見積を取るのです。

「実は、A社さんは○○円という見積額を提示してきたのですが、御社はいかがですか?」と。すると、B社は絶対にシェアーを取りたいですから、同業他社のA社よりも安い金額を提示してきます。そして再びA社に、「あのー、B社さんは円という見積額を提示してきましたが……………」と言うと、A社も絶対にシェアーを奪われたくありませんから、B社以上に見積額を下げてくる可能性は大です。

これらは仕入の努力、資材購入の努力と同様のものです。こうして、一番折り合いのいいところまで交渉をつづけ、たとえば一枚あたりの単価を一円下げることに成功したら、一年間で何百万円、二年間で一千万円に届き、三年間で一千万円を越える経費削減ができるのです。

こういう細かいところの消耗品等についても、毎月出費するものから、一つずつ点検する努力を積み重ねていくと、相当額の経費削減が可能になるのです。

そして、これらの経費削減努力は決して社員のやる気や社内の空気を変えるものではなく、一番賢明な経費削減の努力の一例となるものです。

ところが、いま申し上げたことに対して、どうしても甘くなりがちな経営者が多いものです。

というのは、一日いくら、とか、毎月いくら、という目で見るから、つい甘くなるのです。

これを、「年間でいくらかかるか」、「三年でいくらかかるか」というように計算すると、余計にかかる経費の多さに気づくはずです。

そしてこれは、大切な社員教育の一環でもあるのです。

しかし、ご相談にありましたように、経営者が四六時中、経費削減のことばかり言いつづけると、会社全体の士気が下がってしまいます。

ですから、経費削減については、経営者はもちろんチェックはしますが、ふだんは経理部長や経理課長を通して、無駄な経費の削減を徹底化させるのが得策です。

それよりも経営者は、いつも全社員に壮大な夢とロマン、やる気や働くモチベーションを与え、発展的で攻撃的な社風を作ることが大切です。そして、経営の五本柱をバランスよ

く実行し、特に、「販売管理」に積極的に力を注いでいけば、必ず会社は発展するはずです。ぜひ頑張ってください。

ご健闘をお祈りしております。
(二〇〇四年十一月)

経営コンサルタントの意見を聞いているうちに、自分の経営方針までが見えなくなってきてしまいました。

Q 厳しい現状がしばらく続いていたので、数カ月前から経営コンサルタントに相談するようになりました。しかし、彼の意見を聞いているうちに、自分の経営方針までが、だんだん見えなくなってきてしまいました。北海道札幌市 S・Kさん(30歳)

A:今まで何度も申し上げていますが、たくさんの情報を持っているコンサルタン会社に相談したら、かえって経営がぐちゃぐちゃになって方向性を見失い、結果、失敗してしまった、というケースはとても多いのです。

また、経営コンサルタントが実際に経営して、成功したためしはないとも言われています。まず、そのことをしっかりと認識しなければなりません。

というのも、経営コンサルタントは客観的なデータを示しながら、いろいろとプレゼンテーションをしてきますが、「ではわが社は、具体的にどこをどのようにしたらいいのか、どう決断したらいいのか」と尋ねても、十中八九、結論を出してはくれないのです。

なぜなら、クライアントがその通りに実践してうまくいかなかったときに、「どう責任を取ってくれるんだ!」と言われるのが、経営コンサルタントにとっては困ることだからです。

ですから、「こういう方法もあります。ああいう手法もあります」ということに終始するだけで、なかなか結論を出そうとしないのです。

そうしているうちに、経営者はコンサルタントの意見に振り回されて、自分の経営方針が見えなくなってしまうのです。

しかしこれも、経営者に強い意志と正しい判断力があれば、必ず避けられるのです。

そこで今回は、このような憂き目に遭わないためにも、「経営者は断固とした意志の力を持て!」ということを、はっきりとお話ししたいと思います。

以前にも申しましたが、志とは、「心が方向性を持って方向を「さす」こと」ですから、志を内包する意を、意志とも言うのです。

意志の意は「意識」であり、意志の志は「志」であります。つまり、意志とは「意識と志」なのです。

「こうありたい!」という「意識」と、「将来必ずこうするんだ!」という具体的な「志」があってはじめて意志となり、あらゆるものの原動力となります。

もちろん、成功するためには他にもいろいろな要素が必要ですが、何が一番大事かと言えば、何にも増して意志の力なのです。

たとえば、「わが社には優秀な人材が集まらない」とか「売り上げが思うように上がらない」と、のん気に構えている意志力の弱い経営者に、果たして優秀な人材が集まるのでしょうか。

また、売り上げが目標以上に上がるのでしょうか。絶対にあり得ないことです。

逆に、「何が何でも優秀な人材を集めるんだ!」「徹底的に売り上げを上げて上げて上げまくるぞ!」と、断固とした意志力を貫き通して、具体的に行動している経営者には、素晴らしい人材が必ず集まってきます。

また、売り上げを上げるのに必要な知恵もアイデアも次々と浮かんできて、どんどん売り上げを伸ばすことができるのです。

つまり、経営者の意志力に、人・物・金が集まってくるのです。

意志の力に引っ張られると言っていいかもしれません。そして、意志力のある経営者は、毎日をものすごくエネルギッシュに生きていて、たとえ高齢であっても、若者に負けないくらい元気で、健康そのものです。体全体からパワーがほとばしり出ており、また、かくしゃくとしています。

そういう人で病気がちだという方を、ほとんど見たことがありません。

かくいう私も、ここ二十数年、風邪で寝こんで休んだことは一度もありません。

ということは、健康も精神力も、そして寿命までもが、強固な意志力に引っ張られる、ということなのです。

貫き通す意志力がすべてなのです。強い意志の向かう方向に、人間の全知全能が奮い起こされ、肉体や神経、精神、健康、寿命、そして、知恵もアイデアも運も整って、必ず目標が達成されるのです。

ところが、いろいろと迷った時は決断ができない時もあります。そういう時は、最悪のケースを想定して、その時にどうするかの腹を決めるのです。

そうすれば決断できます。また、つねに最善の決断はなく、完全な決断もないことを知って、よりベターな決断、最悪を避ける決断をするつもりでいれば、決断できるのです。

強い意志力と頑固であることは違います。決断に際してこういう姿勢があれば、頑固ではなくなるはずです。

経営コンサルタントに相談したいというお気持ちは大変よくわかりますが、コンサルタントの意見に振り回されていた自分が、いかに意志力や決断力が弱かったか。

これでよくおわかりいただけたと思います。確かに、人の意見を聞かなければならないときもあります。

しかし、聞きすぎると何もできなくなってしまうのです。

人の意見は聞くだけ聞いて参考にする、という程度が最もいいのです。逆に、経営コンサルタントに対して、経営者から意見を出し、専門的意見とすり合わせたり、専門知識を吸収しながら、独自の方法で経営を進めていくのが、一番賢いやり方です。すぐれた経営者は、みなそうやって、専門家を使いこなしているのです。

また、「厳しい現状がつづいていた」ということですが、現実はあまり見過ぎてはいけないのです。

確かに難しいことですが、半分は未来を見て、半分は現実を見る。そうすると、現実を変えていくことができます。しかし、現実を見過ぎてしまうと、現実の奴隷となってしまい、何もできなくなってしまうのです。

以上申し上げたように、貫き通す意志力こそがすべての原動力であり、その意志の力に、人・物・金はもちろんのこと、あらゆるものが集まってきて、必ず成功できるし、必ず成就できる、ということを、ぜひ認識していただきたい。

そして、コンサルタントを使いこなし、あくまでも会社を経営しているのは自分なのだ、という自信を持って、経営にあたっていただきたいと思います。ぜひ頑張ってください。

ご健闘をお祈りしております。
(二〇〇四年十二月)

経営者仲間から、「経営者は少年のような心を失ってはいけない」とよく言われますが、意味が今ひとつよくわかりません。

Q 最近、経営者仲間から、「経営者が少年のような心を失ったら、その会社は危「ない」とよく言われます。言いたいことは何となくわかるのですが、具体的にはどういうことでしょうか。東京都武蔵野市 T・Mさん(40歳)

A:ご自身が子どもだったころのことを思い返していただければ、よくわかると思いますが、子どもは未知の世界に遭遇すると、「これなあに、あれなあに」を連発します。

そして、親の答えに納得できなければ、「なぜなの、どうしてなの」と執拗に食い下がります。

また、好きなことなら何時間でも集中し、親がやめなさいと言っても決してやめようとしません。

まさに子どもは、好奇心の固まりであり、ものすごい凝り性と言ってもいいでしょう。

しかし、子どもから大人へとだんだん成長するにつれて、「こんなことをやったら格好が悪い」とか、「こんなことを質問したらみんなに笑われる」などという、恥や外聞を気にする心が次第に芽生えてきます。

また、世間に妥協したり、こんなことをやって何の意味があるんだろうかと、すぐに諦めたりするようになります。これが大人の心であり、別名、「常識」や「分別」と呼ばれるものです。

確かに、社会人として生活していく上で常識を欠いてはなりませんが、度が過ぎると、大切な好奇心の芽を摘んでしまい、世界の名画や名曲にふれても感動しないような、感性の鈍い人間になってしまいます。

同時にまた、功利性を求めるあまり、何でも楽をしようという怠惰な心を植えつけてしまう恐れもあります。

しかし、そうなってしまっては、刻々と移り変わっていく人の心や、社会の変化を敏感にキャッチすることなどできなくなってしまいます。

ましてや、世間がアッと驚くような素晴らしいアイデアや発明を生み出すことなど、絶対に不可能と言えるでしょう。

当然、創作力や工夫をお金にするまでの粘りや根性や度胸等が、立派に求められる経営者が務まるはずもありません。

私はこの本で、本田宗一郎氏のエピソードを何度か紹介してきました。

まさに彼こそは、少年のような素晴らしい感受性と夢を持ちつづけ、現状を次々と打破してきた偉大な経営者であり、かつ発明家でもあったのです。彼を見ていると、経営者はいかに少年のような心を持ちつづけなければならないか、がよくわかります。

通称「バタバタ」と呼ばれるモーターバイクが商品化され、大ヒットしたことは夙に有名です。戦争中に、軍需目的で製造された発電用の小型エンジンが、終戦によって使い道がなくなり、放置されたままになっていたのに目をつけた本田氏は、この小型エンジンを安く買いつけ、自転車に取り付けて商品化することを考えつきます。

身内や知人からは、「燃料のガソリンが手に入らないのに、そんなエンジン付きの自転車をつくったところで、誰が買うんだ!」と、猛烈に反対されます。

しかし本田氏は、「ガソリンがないからこそ、少ないガソリンで走れる乗物が売れるんだ!」と大反論し、強引に周囲を説得します。

果たせるかな、このエンジン付きの自転車は、本田氏の予想どおり大成功を収めました。

ホンダはその後、この「バタバタ」をベースに、世界に通用するモーターバイクをつくり上げ、日本を代表するバイクメーカーに成長していきます。

本田氏は大企業の経営者になってもなお、作業服に身を包んでペンチを握りつづけ、社長室の椅子に腰を下ろすことはほとんどなかったと言います。

大企業の経営者と言えば、社長室の大きな椅子にデーンと腰を下ろしているというイメージですが、そういう常識を見事に打ち破ったのです。本田宗一郎氏の残した名言に、「真に創造的な人間は、オッチョコチョイかもしれないね。ともかく常識の枠を破らなくちゃいけないのだから」というのがあります。

経営者が少年の心を失ってはいけない理由を教えてほしい

本田技研工業はその後、CVCCという世界に例を見ない低公害エンジンの開発を足がかりに、世界に冠たる自動車メーカーへと成長を遂げていきますが、もしも少年のような心の本田宗一郎という経営者がいなかったら、「世界のホンダ」は、全く存在しなかったはずです。

前述したように、本田技研工業が世界的な大企業になっても、本田氏は率先して現場に立ち、油まみれになって働きつづけたのです。

そんな本田氏の姿に励まされた若手エンジニアたちが、「おれたちも頑張らなきゃ!」と発奮し、当時不可能と言われた米国マスキー法の定める基準を、見事にクリアする低公害エンジンの開発に夢中になって取り組んだのです。

そして、ついに世界で初めて同法をクリアするCVCCエンジンの開発に成功したという話は、あまりにも有名です。

本田宗一郎氏のように、経営のトップが少年のような瑞々しい心を持ちつづけ、常識の壁を打ち破る姿勢がある限り、企業の生命力は生き生きとし、進歩と発展力は衰えることがないのです。

さらに、「楽をしたい」とか「面倒くさい」、「あえて危険を冒したくない」という、老化する心の壁を打ち破る姿勢を保ちつづけている限り、社員の一人一人も成長をつづけていくのです。

ですから、企業経営者は単に経営技術に優れていれば、誰にでもできるというものではありません。

社員も顧客も人間ですから、人間の心や想像力に働きかけ内面性が必要なのです。その内面性の中に、成長していく人間の原点と言える「少年の心」があります。

どうか、知性や肉体は年とともに成熟し、老化しても、心だけは少年のようでありつづけてください。それが、会社の発展力の源になるのですから。
(二〇〇五年一月)